庭師GOKAN!
庭師の松下裕崇さんが庭づくりを通して感じたことや、
視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感で捉えた世界を紹介します。
庭師松下公式ホームページ https://www.niwashi-matsushita.org/
第43回 難しい施主
文・写真/松下裕崇(庭師)
三田に引っ越しして1年と半年が過ぎ、我が家のリフォームは少しずつ進んできました。基本的に自分たちの手で家を改造しております。だから、自分の部屋は自分でデザインを決めなければなりませんし、子供部屋は子供たちが自ら考えて床の素材や壁の素材や色を決めてもらいました。
通常なら、緑やブルーやなどといった子供らしい選択をするかもしれませんが、うちの次男は独特のセンスの持ち主で、「壁の色は何がいい?」と聞くと、「グレー」と子供らしからぬ意見。「どんなグレーがいい?」と聞くと、「薄いグレー。あと、なんとなくざらっとした感じ(の質感)が良いくて、すこし凸凹しててもいいかな。天井は木が見えているようにしてほしい。」と分かったようなことを言います。
つまり、梁を見せた状態にして、壁は左官で、ということです。薄いグレーということは漆喰に土を入れて調整しなければなりません。しかも、ざらっと凹凸という表情を出すために少し鏝ムラをつけ塗ってほしいというわけです。「じゃあ、漆喰(白色)に土(灰色の土)を混ぜて色を合わせていくから、横でみててね」と目の前で漆喰の色調合をすると、「んー、ちょっと違うわ。もう少し薄いグレーが好きやわ」などと、デザイナー気取りの意見も次男からは出てきます。
それもそのはず、我が家のお出かけといえば、遊園地の代わりにお寺、茶室、美術館、建築探訪ばかりで、とにかくたくさんの変わった空間を見てきました。しかも、前に住んでいた家は全ての壁を荒壁(昔の土壁の下地の土を塗った状態)で仕上げた土ハウスだったし、僕の現場で一流の左官職人さん達の仕事も多数見てきたので、ある意味、壁に関して、目が肥えているのかもしれません。
しかも、彼は自分で作りたい、というので、解体、下地ボード貼りから、仕上の漆喰までほぼ全部の工程を一緒に作業しました。長男にも自分の部屋のデザインをお願いしたところ、「いや、俺はこんな寒い家じゃなく、綺麗であったかいマンションみたいな部屋がいい」と。すまぬ、長男よ。それには少し、いや、かなり、予算の問題が。