毎週金曜日夜9時からお届けしている「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
三田ニュータウンの街路樹が色ずき始め、秋が深まってきましたね。
今週ご紹介したとっておきの映画は、『博士と狂人』というノンフィクション映画です。
原作は全米で大反響を呼んだ、サイモン・ウィンチェスター著「博士と狂人~世界最高の辞書OEDの誕生秘話」。
OEDというのは、オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリーのこと。
イギリス・オックスフォード大学でプロジェクトを組み、1928年の第1版刊行まで、なんと70年以上を費やした世界最高峰の辞書。
そのOEDの編纂に関わったのが、マレーという異端の学者とマイナーという殺人犯だった……という衝撃の実話なのです。
まさに、事実は小説より奇なり……。
【STORY】
19世紀末のイギリス。
スコットランドの仕立て屋の息子マレーは、独学で言語学博士となり、オックスフォード大学で、英語辞典編纂計画の責任者に抜擢される。
シェイクスピアの時代まで遡りすべての言葉を収録するという、無謀ともいえるそのプロジェクトは困難を極める。
同じ頃、アメリカ人の元軍医マイナーは、戦争体験から精神を病み、被害妄想の挙句に人違いで殺人を犯してしまう。
心の病により無罪になったものの、精神病院に収監される。
マレー博士は、辞書に必要な膨大な量の用例を集めるため、学者や専門家ではなく一般の人々の協力を求めようとする。
その「声明文」を雑誌や新聞に掲載、売られている本にも挟み込み、多くの人々に協力を呼びかけた。
これによって、マレー博士と心を病んだ殺人犯マイナーとの接点が生じ、二人の間に「辞書づくり」を通じて不思議な絆が生まれていく。
【REVIEW】
41万語以上の収録語数を誇る“世界最大で最高の辞書OED”の誕生秘話を記した実話。
原作が1998年に発行されるとたちまちベストセラーとなり、すぐに映画化に名乗りを上げたのがメル・ギブソン。
構想から20年以上かけ、執念でこの作品を世に出したメル・ギブソン自身がマレー博士を演じている。
マレーはスコットランドの仕立て屋の息子から、独学で言語学博士になったという。
そして、被害妄想の人違いで殺人犯になってしまったのが、ショーン・ペン演じるアメリカ人の元軍医マイナー。
マレーとマイナー、この二人が偶然コンタクトを取り合うようになり、世界最高の辞書づくりに力を合わせていく。
辞書作りの困難さだけではなく、マレーの妻の思いやマイナーが殺した男の妻との交流などもドラマチックに描かれ、奥行きの深い作品となっている。
また当時の人権を無視したような治療法のおぞましさ、反対に物語の良心となる看守の存在など、闇と光のバランスも絶妙なのである。
ラストには、たとえ殺人犯であってもマイナーを救いたい……と祈るような気持ちになるのは、マイナーを演じたショーン・ペンの“瞳の力”なのかもしれない。
そういえば、日本にも「舟を編む」という辞書づくりがテーマの映画があった。
2013年の日本アカデミー賞を受賞した傑作で、こちらの方は「辞書づくり」そのものを、時にユーモアも交えて興味深く描いていた。
しかし、この『博士と狂人』は、「辞書づくり」をとおして、強い信念や友情の固い絆、罪や赦しなど、心に深い余韻を残してくれる作品なのである。
原作:サイモン・ウィンチェスター著「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
監督:P.B.シェムラン
出演:メル・ギブソン ショーン・ペン ナタリー・ドーマー エディ・マーサン ジェニファー・イーリー スティーヴ・クーガン
2018年 イギリス・アイルランド・フランス・アイスランド 124分 配給:ポニーキャニオン
https://hakase-kyojin.jp/
10月16日(金)から、シネ・リーブル梅田で公開が始まっています。シネ・リーブル神戸は10月23日(金)から。