毎週金曜夜9時からおおくりしているシネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した作品は、第３２回東京国際映画祭でグランプリを受賞した『わたしの叔父さん』というデンマーク映画です。
©2019 88miles
みなさんはデンマークと言うと何を思い浮かべますか？
首都はコペンハーゲン……というと、高級な磁器の「ロイヤル・コペンハーゲン」でしょうか？
それとも『人魚姫』などのアンデルセン童話？
ところで、デンマークは酪農が盛んで、乳製品が豊富ということをご存知でしたか？
この「わたしの叔父さん」という作品は、デンマークで酪農業を営んでいる女性と、その叔父さんの物語です。
しかも、演じるふたりは本当の姪と叔父の関係なのだそうですよ！
監督が、舞台となる農場に滞在して取材するうちに、クリス役の候補だったイェデ・スナゴーの本当の叔父である農場主のテュ－センさんに白羽の矢が……。
もちろん、テューセンさんは全くの演技未経験者なのですが（これぞ阿吽の呼吸というものでしょうか）とても自然な姪と叔父に仕上がっています。
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【STORY】
のどかで美しいデンマークの農村。
27歳のクリスは、叔父さんとともに酪農農家を営んでいる。
クリスは１４歳の時に兄と父親を亡くし、それ以来叔父さんと暮らしてきた。
早朝に起き、足の不自由な叔父さんの着替えを手伝い、食事をし、牛の世話、作物の刈り取り……。
夕食後はコーヒーを淹れてくつろぎ、週に一度スーパーマーケットに出かけるというルーティーン化した日々を黙々と過ごしている。
そんなふたりの穏やかな日常が、ある夏を境に少しずつ変化していく。
実はクリスにはかつて獣医になる夢があったが、高校卒業直前に叔父さんが倒れ、獣医学校への進学を諦めたという事情があった。
村の獣医ヨハネスの手伝いを始めたクリスの胸に、その夢が甦ってきたのだ。
そして、教会で知り合った青年からのデートの誘いも……。
戸惑いながらも広い世界に目を向け始めたクリスを、叔父さんは静かに後押しするのだが……。
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【REVIEW】
冒頭の１０分ほどは、クリスと叔父さんの毎日のルーティーンが黙々と描かれる。
無表情に淡々と仕事をこなすふたりの姿は、まるでモノクロ映画を観ているように何の刺激もない。
若いクリスはこの生活に満足しているのだろうか？ と思いながら観ていると、ある時から急に画面に色がついたように感じる。
それは、教会で知り合ったマイクという青年からデートに誘われたクリスの心の高揚である。
悲しい過去を経験しているクリスはもともとクールで、その表情に変化はあまりない。
が、初めてのデートに出かける日に髪をヘアアイロンでカールさせる、その時にはやはり女性ならではの輝きがにじみ出る。
叔父さんがクリスの髪の毛先をカットしてあげるのだが、ここはふたりの感情がほのかに伝わってくる良いシーンだ。
彼女に人間としても女性としても幸せになってほしいと思っている叔父さんの胸のうちが、手に取るようにわかるから。
そして、デートの待ち合わせ場所に現れたクリスにマイクは少し戸惑うが、ここはささやかなユーモアを感じる貴重なシーンだ。
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監督フラレ・ピーダセンは日本の小津安二郎監督を映画の師と仰いでいて、家族の感情の移り変わりを描いた『東京物語』などに、非常に影響を受けたと語っている。
海外の監督に小津ファンは多いが、彼もまた何気ない日常の一瞬のきらめきを大切にしながら、人生を描く作品作りをしているようだ。
『わたしと叔父さん』は「人生の選択」がテーマ。
つまり、主人公のクリスが農場にとどまって叔父さんと暮らすか、農場を出て夢を実現させるか……。
生きていく中で、誰もが大なり小なり「選択」を繰り返して現在の自分に至っているからこそ、クリスの葛藤に共感できるはず。
ラストシーンのクリスの表情が、彼女の素敵な未来を予感させる、味わい深い作品である。
監督・脚本：フラレ・ピーダセン
出演：イェデ・スナゴー ペーダ・ハンセン・テューセン
2019年 デンマーク 110分 配給：マジックアワー
https://www.magichour.co.jp/ojisan/
２月５日（金）～テアトル梅田などで公開
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