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【とっておきシネマ】イギリス・フランス映画『ファーザー』

毎週金曜日夜9時からおおくりしているシネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。

緊急事態宣言は延長中ですが、兵庫の映画館は土日の休業や平日の時短などの対策をとり営業を再開しています。
……ということで、番組も今週から新作シネマの紹介を再開しました。
なお、劇場での映画鑑賞は、各劇場の営業状況や感染予防対策などをご確認の上、慎重にお願いします。

さて、今週のとっておきシネマは、第93回 アカデミー賞で、主演男優賞と脚色賞を受賞した『ファーザー』をご紹介しました。
主演男優賞を受賞した現在83歳のアンソニー・ホプキンスは、史上最高齢の主演男優賞で、『羊たちの沈黙』のレクター博士から29年ぶり、2度目の快挙です。

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

【STORY】

ロンドンで一人暮らしをする父アンソニーの元へかけつける娘のアン。
父の介護人から、「暴言を吐かれたから辞めたい」という連絡が入ったのだった。
81歳になるアンソニーは認知症の気配が出始めていたが、「誰の助けも必要ない」と頑なに介護人を嫌がっている。
癖は強いが魅力的だった父親の変化に胸を痛めながらも、アンは新しい介護人のローラを父に紹介する。
珍しく機嫌のよいアンソニーは、冗談を言ってローラを笑わせるが、次の瞬間一転して辛辣な言葉を投げつける。
さらに、アンと彼女のパートナーが結託して、この家を奪うつもりだと娘を攻撃する。
アンは深く傷つき、父の世話をするべきか、自分の人生を歩むべきか思い悩む。
そして、過去と現在、事実と幻想がますます混濁していくアンソニーは……。

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

【REVIEW】

2012年のパリ公演から世界30か国以上で上演され、大絶賛された舞台を映画化した作品。
ローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞などを受賞し、もちろん日本でも上演(橋爪功さん主演)された。
そして、原作者で舞台を手掛けたフロリアン・ゼレールが、はじめて長編映画の監督を務めた作品でもある。
父親役をアンソニー・ホプキンス、娘のアンをオリヴィア・コールマンが演じている。
ホプキンスは『羊たちの沈黙』(1991年)、そしてコールマンは『女王陛下のお気に入り』(2018年)で、ぞれぞれオスカーを手にしている。
見どころは、そのオスカー俳優の共演ということ、そして認知症の父親アンソニーの視点で描くという画期的な表現方法である。

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

「介護人に時計を盗まれた」……父が娘にそう訴える典型的な認知症のシーンから始まる。
そこから先、私たち観客は認知症による記憶と時間の混乱を、アンソニーと共に体験することになる。
それは、迷宮に分け入るようなスリリングな映像体験で、思わず巻き戻しをしたくなるような混乱に陥るのだ。
たとえば、娘のアンから「新しい恋人とパリで暮らす」と告げられショックを受けるアンソニー。
ところが、その直後に居間のドアを開けると見知らぬ男がいて「アンと結婚して10年以上になるパートナーだ」という。

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

この見知らぬ男はいったい誰なのだろう? アンは誰とパリに行くつもりなのか?
さらに彼は「ここが自分とアンの家だ」と主張するが、この家はアンソニーの家ではないのか?
もしかしたら、アンソニーの家でもアンの家でもない、また別の家なのか?
ちょうどアンが買物から帰ってきた……と思ったら、これも知らない女で、「お父さん」と呼ぶ。
記憶と幻想の境界が崩れていく父の混乱と恐怖と苛立ちを観客も体感し、戸惑いながらも父の世話をする娘の切実な思いも実感する。
ラスト近く、母親を思い出して赤ちゃんのように泣くアンソニーが強烈に愛おしく、心を揺さぶられる。
アカデミー賞史上最高齢の主演男優賞の演技、見逃すのは実にもったいない。

原作・監督:フロリアン・ゼレール
脚本:クリストファー・ハンプトン フロリアン・ゼレール
出演:アンソニー・ホプキンス オリヴィア・コールマン マーク・ゲイティス イモージェン・プーツ ルーファス・シーウェル オリヴィア・ウイリアムズ
2020年 イギリス・フランス 97分 配給:ショウゲート
https://thefather.jp/

5月14日から、シネ・リーブル神戸 TOHOシネマズ西宮OS TOHOシネマズ伊丹 などで上映中

番組では、メッセージをお待ちしています。
メールアドレス:honey@fm822.com
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番組の感想や、映画に関することなら何でもOKです。
お待ちしています。

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