毎週金曜日、夜9時からの最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
さて、今日8月6日は広島原爆忌、9日は長崎原爆忌、15日は終戦記念日と、「戦争」や「命」について思いを馳せる夏ですね。
今週は、今日から公開の『映画 太陽の子』をご紹介しました。
太平洋戦争末期に存在した“日本の原爆開発”という事実を基に、時代に翻弄されながら全力で駆け抜けた若者たちの等身大の姿を描いた物語です。
【STORY】
1945年の夏、京都帝国大学・物理学研究室。
若き科学者・石村修ら研究員は、軍の密命を受けて“原子核爆弾”の研究開発を進めていた。
研究に没頭する日々の中、修の家の離れに、建物疎開で家を失った幼馴染の朝倉世津が住むことになる。
同じころ、修の弟・裕之が戦地から一時帰郷し、久しぶりに再会し喜び合う3人。
戦地で心に深い傷を負った裕之、そして研究に没頭しながらその裏にある破壊の恐ろしさという葛藤を抱える修。
そんな二人を力強く包み込む世津は、戦争が終わった後の未来を既に見据えていた。
やがて、戦地へと戻る裕之。
そして自分たちの未来のためと信じ原爆の開発を急ぐ修だったが、運命の8月6日が訪れてしまう。
日本中が絶望に打ちひしがれる中、それでも前を向く修が見出した新たな光とはーー?
【REVIEW】
監督・脚本は、黒崎博。
92年にNHKに入り、朝ドラ「ひよっこ」や今年の大河ドラマ「青天を衝け」など代表作多数。
その黒崎監督が、広島の図書館の片隅で若き科学者の日記の断片を見つけたのが、この作品の始まりだという。
日記には「原子の力を利用した新型爆弾の開発」という衝撃の事実とともに、日々の食事や恋愛など等身大の大学生としての日常も記されていた。
戦時下の極限状態の中で、ひたむきに青春の日々を生きた若者たちの姿を描きたいと、10年以上の歳月をその準備に費やし完成した作品である。
まずは黒崎氏のシナリオが、サンダンス・インスティテュート/NHK賞で特別賞を受賞し、国境を超えて多くの人々の心を掴む。
その映像化への願いは、ハリウッドのクリエイターたちにも広がり、2020年にテレビドラマ『太陽の子』が放送された。
そして今、ドラマとは異なる視点と結末で描かれた完全版が、この『映画 太陽の子』なのだ。
“原子核爆弾”の開発、それは世界を滅ぼしかねない研究である。
自分たちが作らなければアメリカが、アメリカが作らなければソビエトが……核爆弾を先に開発したものが世界の運命を決めるのだ。
主人公の修は原子物理学を志す科学者として、その研究がもたらすであろう恐ろしい結末を思って葛藤する。
そして、軍人として壮絶な戦地での戦いが脳裏から離れない、弟の裕之にも「俺だけ死なないわけにはいかない」という心の葛藤がある。
この兄弟の幼馴染の世津は、冷静に戦争が終わった後の未来を見据えて心の準備をしている。
当時の若者として、彼らが心に葛藤を抱えながらも日々しっかり生きている姿が描かれる。
修は柳楽優弥さん、裕之を亡き三浦春馬さん、世津を有村架純さんが演じている。
また、兄弟の母親フミ役の田中裕子さんの演技も静かながら胸を打つ。
広島・長崎に原爆が落とされた後、次は京都ではないか…という噂が流れる。
それを知った修のある決意、そしてその決意を打ち明けられた母フミの放つ言葉……凄まじい気迫が交わるシーンだ。
唯一の被爆国・日本が、実は原爆開発をしていて、もしかしたら加害者になっていたかもしれないという深刻なテーマ。
それを日米のスタッフが協力して描くというこのプロジェクトは、勝ったとか負けたとか、悔しいとか悲しいとかをはるかに超越している。
科学者の純粋さと、それがゆえの尋常ではない研究欲と、そして未来を信じることの尊さを描いた作品である。
今までの戦争映画とは少し違った余韻を残してくれる作品ではないか……と、私は思う。
監督・脚本:黒崎博
出演:柳楽優弥 有村架純 三浦春馬 國村隼 田中裕子
2021年 日本・アメリカ合作 111分 配給:イオンエンターテイメント
https://taiyounoko-movie.jp/
8月6日(金)~ TOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズ西宮OS イオンシネマズ三田ウッディタウン などで公開