毎週金曜日、夜9時からの最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した作品は、アメリカ映画『カモン カモン』。
主演は2019年の『ジョーカー』で狂気を見事に体現したホアキン・フェニックス。
突然始まった甥っ子との共同生活。戸惑いと衝突、想定外から生まれた奇跡の日々……という心温まる優しい物語です。
【STORY】
アメリカ中を回って子供たちにインタビューしているラジオジャーナリストのジョニー。
彼は妹ヴィヴの9歳になる息子ジェシーの面倒を見るためにロサンゼルスを訪れる。
ヴィヴはメンタルのトラブルを抱えた別居中の夫の手助けをするため、オークランドに向かうのだった。
ジョニーは、賢くて風変わりなジェシーに戸惑いながらも、次第に打ち解けていく。
ところが、夫の状態がよくないためオークランド滞在を延ばすとヴィヴから連絡が入る。
仕事のスケジュールが入っているジョニーは、ニューヨークのアパートにジェシーを連れて戻る。
それは彼にとって、子育ての厳しさを味わうと同時に、驚きに満ち溢れたかけがえのない体験となる。
【REVIEW】
大人と子供の関係がテーマ。
何も知らない主人公が一夜にして、子育ての厳しさを思いっきり味わうストーリー。
勝手に予想していた、いわゆる子供に振り回されるコメディタッチの顛末とは全く違っていて新鮮。
なぜ、新鮮なのか?
まずは全編モノクロ映像の効果だ。
“ドキュメンタリー性を盛り込んだ寓話”として表現するという監督の意図から、モノクロで描かれている。
色のない世界に観客は集中し、そのうち色の有無に関心がなくなるか、自分だけに見える色を感じるか……。
次に、ラジオジャーナリストのジョニーによるインタビューというドキュメンタリータッチのシーンが挿入されていること。
それは実際に取材した9〜14 歳の子供たちのナマの“声”である。
自分たちの住んでいる街、現在の生活、世界、そして未来について率直に語る彼らの言葉は、生々しくパワフルだ。
大人が想像する以上の“思いを明確に言葉で表現する力”を、子供たちがしっかり持っていることに驚く。
このインタビューシーンは、「大人は子供と彼らの未来に責任がある」という強いメッセージ性を表している。
そしてもうひとつ、ジョニーがジェシーに読み聞かせる何冊かの本。
特に、アメリカの作家クレア・A・ニヴォラによる絵本「星の子供」のストーリーは心に残る。
残念ながら、日本語訳は発売されていないらしいので、映画の中でその一部分でも味わってほしい。
ジョニーが読みながら泣き出すほど、素敵で味わい深いお話なのだ。
子供は天使のように見えながら悪魔のような部分も持っていて、大人を試すような言動をとることがある。
ジェシーも例外ではなく、ジョニーを翻弄するような行動をとる。
伯父のジョニーはそれをストレートに受け止め、ジェシーの信頼を勝ち取るのだ。
行き交う人で賑わう街を歩く伯父と甥が、さりげなく手をつなぐシーンに心がじんわりと温かくなる。
監督・脚本:マイク・ミルズ
出演;ホアキン・フェニックス ウディ・ノーマン ギャビー・ホフマン モリー・ウェブスター ジャブーキー・ヤング=ホワイト
2021 年/アメリカ/108 分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
4月22日(金)~TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
関西ではTOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ西宮OS 109シネマズHAT神戸など
シネ・リーブル神戸は4月29日(金)~