今週は日本映画を2本ご紹介しました。
2本目は、阿部寛さん主演の『異動辞令は音楽隊!』という人生大転換エンターテインメントです!
【STORY】
主人公は、犯罪捜査に人生のすべてを捧げてきた鬼刑事・成瀬。
だが、コンプライアンスが重視される今の時代に、違法すれすれの捜査や組織を乱す個人プレイ、上層部への反発や部下への高圧的なふるまいで、成瀬は周囲から完全に浮いている。
その結果、命じられた異動先は、まさかの警察音楽隊!
すぐに刑事に戻れると信じて練習にも気が入らない成瀬は、ここでも隊員たちと険悪な関係に陥り浮いてしまう。
しかも未練がましく、担当していた強盗事件の捜査に口を出そうとして、捜査本部にとって全く無用な存在だと思い知らされる。
さらにプライベートでは、同居している母親は認知症、離婚して元妻と暮らす娘からはラインブロックされ、失意のどん底。
そんな成瀬に手を差し伸べたのは音楽隊の隊員たちだった。
成瀬は、しだいに音楽隊の演奏に救われる人たちがいることを知り、隊員たちと練習に励むが……。
【REVIEW】
一昔前の泥臭い刑事役を熱演する成瀬役の阿部寛。
変わっていく時代についていけない古いタイプの刑事が、自分の居場所を見失い途方に暮れる“もがき”のようなものをヒシヒシと感じる。
舞台は、警視庁などの大きな組織ではなく地方の県警本部で、音楽隊も人手がなく隊員は兼務だ。
パトカーに乗りながら、交通取り締まりをしながら、一定の時間に楽器の練習もするという勤務体制。
しかし成瀬は刑事との兼務ではなく音楽隊の総務と音楽隊員という、ほぼ専務の状態なのだ。
刑事時代には「音楽隊なんて……」と思っていた彼は、演奏に癒される人や警察に親しみを持ってくれる人々を通して音楽隊の存在意義に気づいていく。
その人々の中には多くの高齢者がいて、成瀬が外された事件はまさに高齢者を狙った凶悪犯罪。
それも並行して描かれていて、単純な結果オーライ物語ではない。
ハードな捜査とソフトな音楽、どちらも大切な警察活動なのだというのが伝わってくる。
この映画が作られたきっかけは、あるYouTube映像(おそらく愛知県警の公式サイト)だった。
ショッピングモールの広場にポツンと置かれたドラムセットに、制服姿の一人の警官が近づく。
そしてスティックを握ると、いきなり鮮やかにドラムを叩き出すという、まさかの行動。
そこへ管楽器を携えた警官たちが加わり、ジャズのスタンダードナンバーが奏でられる……という映像だ。
その映像を偶然見た内田英治監督が、中年刑事の人生を通して組織の中で自分の立場が失われていく葛藤をテーマにした作品を作ったのだ。
監督自身も挫折しそうになった時に音楽に救われた過去があり、その想いを映画にしたという。
主人公の成瀬が葛藤を乗り越え、置かれた場所で咲こうとする姿が清々しい。
監督:内田英治
出演:阿部寛 清野菜名 磯村勇斗 / 倍賞美津子
2022年/日本/119分/配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/ongakutai/
8月26日(金)~TOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズ西宮OS イオンシネマ三田WTなど