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【とっておきシネマ】『スペンサー ダイアナの決意』(イギリス・ドイツ)

毎週金曜、午後9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。

今週のとっておきの1本は、イギリス・ドイツ合作映画『スペンサー ダイアナの決意』という作品です。
ダイアナはイギリスの名門貴族スペンサー伯爵家の令嬢として1961年に生まれ、81年にチャールズ皇太子と結婚しました。
ウィリアムとヘンリーという二人の王子に恵まれたものの、96年に皇太子と離婚、翌97年にパリで交通事故による不慮の死を遂げました。
36歳という若さでした。
そのダイアナが皇太子妃だった91年のクリスマス、精神的に追い詰められた果てにダイアナがある決意をする~という物語。
いわゆる伝記映画ではなく、彼女の運命を変えたクリスマスの数日間に起きたであろうことを想像して描かれたフィクションです。

Pablo Larrain

【STORY】
1991年、クリスマス。
英国ロイヤルファミリーの人々は、いつものようにエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まったが、例年とは全く違う空気が流れていた。
ダイアナ妃とチャールズ皇太子の仲が冷え切り、不倫や離婚の噂が飛び交う中、世界中がプリンセスの動向に注目していたのだ。
ダイアナにとって、二人の息子たちと過ごすひと時だけが、本来の自分らしくいられる時間だった。
息がつまるような王室のしきたりと、スキャンダルを避けるための厳しい監視体制の中、身も心も追い詰められてゆくダイアナ。
彼女は幸せな子供時代を過ごした故郷でもあるこの地で、人生を劇的に変える一大決心をする。

Frederic Batier

【REVIEW】
世界中にチャールズとダイアナに関して不倫や離婚の噂が飛び交う中、クリスマスのサンドリンガム・ハウスに一人で車を運転して向かうダイアナ。
遅刻をしてしまった彼女を誰もあからさまには責めず、何事もなかったかのように平穏が取り繕われ、息がつまるようなクリスマスの数日間が過ぎていく。
そして、すべてが嚙み合わないままダイアナの心の葛藤は限界に達し、ついにある行動に出る。
ダイアナの生涯を伝記映画のように描くのも興味深いが、精神的に追い詰められた一人の女性が自分の運命を変える、その瞬間にフォーカスしたことで心揺さぶられる作品となっている。

Claire Mathon

印象に残ったポイントがいくつかある。
まずは、クリステン・スチュワート演じるダイアナのファッションだ。
2度のオスカー受賞を経験している衣装デザイナー、ジャクリーン・デユランが担当。
常に周囲より一段明るい色選びをしていたというダイアナのファッションが、あらゆるシーンでたっぷり楽しめる。
なかでも、スチュワートの着こなすシャネルのオートクチュールのドレスの美しさは必見。

Pablo Larrain

そして、16世紀に生きたアン・ブーリーンの存在。
ヘンリー8世の2番目の王妃で、エリザベス1世の生母であるアン・ブーリンは、王妃でありながら反逆罪などで処刑されてしまう悲劇の女性だ。
自分が王妃になるために、ヘンリー8世と最初の妻キャサリンを離婚させ国の宗教まで変えてしまうが、自身も後に国王によって処刑されるという運命をたどる。
ヘンリー8世がその後すぐに別の女性と結婚したことには絶句するが、このアン・ブーリンが追い詰められたダイアナの前に何度も現れるのだ。
もちろんダイアナの妄想・幻想として描かれるが、彼女はアン・ブーリンに自分を重ねていたのか、それとも夫チャールズと噂のあるあの女性を重ねていたのか……。
そのアン・ブーリンとダイアナの実家スペンサー家は遠い親戚関係にあるという事実は、何か因縁めいている。

もちろん、愛する王子たちとの絆も描かれている。
長男のウイリアム王子が母親のダイアナの心の変化に気づき(ヘンリー王子はまだ幼い)、一生懸命に母をフォローしている姿が健気だ。

Pablo Larrain

さらに立場の違った視点で、チャールズの言葉も心に残る。
「王室の人間には二人の自分が必要だ。国民が望む姿を見せる自分と、本当の自分」
チャールズが実際にそう言ったかどうかはわからないが、誰だって本当は自分らしく生きたい、しかし「役割」があるのだと。
夫婦の考え方、生き方が真正面からぶつかるこのシーンは見ごたえがあった。

また現在上映中のドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』(エド・パーキンス監督)も併せて観たい。
膨大なアーカイブ映像でダイアナの半生をたどるこのドキュメンタリーでは、19歳の婚約から亡くなる瞬間までカメラにさらされ続けたダイアナの姿が懐かしくもあり、哀しくもある。
この秋は、自分がもしダイアナだったら、どの生き方を選ぶだろうか……そんなことを真剣に考えてしまいそうだ。

『スペンサー ダイアナの決意』
(C) 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED
監督:パブロ・フライン
出演:クリステン・スチュワート ジャック・ファーシング ティモシー・スポール サリー・ホーキンス ショーン・ハリス
2021年/イギリス・ドイツ/117分 /配給:STAR CHANNEL MOVIES
https://spencer-movie.com/
10月14日(金)~TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー 関西ではTOHOシネマズ梅田 西宮OS シネ・リーブル神戸などで公開

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