ハニーエフエム|地域・人にフォーカスし発信する総合メディア

NEW POST

TAG LIST

エンターテインメント

【とっておきシネマ】『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』(製作国:ロシア・ドイツ・ベラルーシ)

金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。

今週は、ウクライナ出身のヴァディム・パールマン監督の作品『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』をご紹介しました。
第二次世界大戦中、数百万のユダヤ人大虐殺が行われたナチス・ドイツの強制収容所。
その生存不可能といわれた絶望の場所で、信じがたい方法で何度も処刑を免れたユダヤ人の青年がいました。
それは、ペルシャ人になりすましナチスの将校に“架空のペルシャ語”を教えるという、驚くべきものでした。
ドイツの映画脚本家ヴォルフガング・コールハーゼの短編小説『Erfindung einer Sprache(原題)』(言語の発明という意味)に基づいて作られた物語です。
毎年ホロコーストを題材にした映画が公開され、そのほとんどが実話に基づいた物語だと思いますが、新しい作品はいまだ尽きることがありません。
それほど数多くの尊い命が無残に奪われたことを、忘れてはいけない……という思いを新たにする作品です。

HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 ©

【STORY】
ナチス親衛隊に捕まったユダヤ人青年のジルは、処刑される寸前に、自分はペルシャ人だと嘘をついたことで一命を取り留める。
彼は、終戦後にテヘランで料理店を開く夢をもつ収容所のコッホ大尉からペルシャ語を教えるよう命じられ、咄嗟に自ら創造したデタラメの単語を披露して信用を取りつける。
こうして偽の<ペルシャ語レッスン>が始まるのだが、ジルは自身がユダヤ人であることを隠し通し、何とか生き延びることはできるのだろうか──。

HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 ©

【REVIEW】
主人公のジルは、収容所へ運ばれるトラックの中で、たまたまサンドイッチをひと切れ持っていた。
見知らぬ飢えた男から、サンドイッチとペルシャ語の本を交換してくれと懇願され、しぶしぶ交換したことが彼の運命を変える。
トラックから降ろされた人々が次々射殺される中、ジルは咄嗟にその本を掲げて「私はペルシャ人だ!」と叫んで命拾いをするのだ。
収容所では調理担当として働き、勤務後はペルシャ語を習得したいコッホという大尉に語学レッスンをすることになるジル。
実は、彼はペルシャ語を一言も喋れないのだった。
これは観ている方も恐怖しかない。バレたら即射殺どころか壮絶な拷問が待っているかもしれないのだ。
ジルは、でたらめの単語をコッホに毎日教えるが、大変なのはその膨大な数の言葉を自分も憶えておかなければならないこと。
皿、パン、木、父、母……あらゆる単語を作っては、積み重ねて憶えていなければ整合性がなくなるからだ。
いつバレてしまうか、ハラハラするシーンは最後の最後まで続くが、ジルはある方法で単語を作り憶える……ということを思いつく。
そんな主人公ジルの気の遠くなるような記憶力がラストシーンに繋がり、私たち観客の胸を打つことになる。
まさに死に物狂いと表現するしかない命がけの“記憶”がテーマとなっている。

HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 ©

さて、コッホは何故ペルシャ語が学びたいのか?
戦争が終わったら、兄が住むテヘランで料理店を開くという夢を持っているのだ。
冷酷で鬼のようなコッホにも、肉親との関係や将来の夢など人間的な面もあることが徐々に描かれる。
束の間、二人の心が通じ合うようなシーンもあるのだが、終の場所に移送されて行く他のユダヤ人たちを見送るジルの心に、ジワジワうしろめたさが沸き起こる……。
何故なら、コッホがペルシャ語レッスンを受けるために、ジルを手元に留め置いているからに他ならない。
自分の置かれた特別な立場に、彼は徐々に苦しむことになる。
そんな時、絶対絶命のピンチがやってくる!
最初から最後まで、ハラハラが止まらない。

HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 ©

ナチスのホロコーストでは、この主人公ジルのように機転と鋭い思考で助かったという人々の似通ったストーリーは何百もあるという。
人間が追い詰められたとき、咄嗟の機転でそれを一時的に逃れられたとしても、逃れ続けるためにすべき努力は、とてつもないエネルギーを必要とするはず。
ジルや、ホロコーストを同じように生き延びた人々のエネルギーと生命力に感動する。
楽しいシーンなど一つもないこの『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』だが、ラストシーンは胸にこみ上げるものがあり、やはり観るべき映画だろう。

監督:ヴァディム・パールマン
出演:ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート、ラース・アイディンガー、ヨナス・ナイ、レオニー・ベネシュ
2020年/ロシア、ドイツ、ベラルーシ/129分/提供:木下グループ/配給:キノフィルムズ
https://movie.kinocinema.jp/works/persianlessons
11月18日(金)~アップリンク京都、11月25日~シネ・リーブル梅田 12月2日~シネ・リーブル神戸で順次公開。

2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930 

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5

RECOMMEND

PAGE TOP
error: Content is protected !!