金曜の夜9時からおおくりしている「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介したとっておきの1本は、韓国映画『小説家の映画』。
2022年の第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞した作品で、監督はホン・サンス監督です。
ホン監督は、ベルリンでの銀熊賞受賞が3年連続4度目という、韓国を代表する監督の一人です。
モノクロ作品ですが、映像はカラーで撮影してからモノクロに変換し、あえて映像の質が低下するように意図したと監督は語っています。
ラストには効果的にカラーが入りますが、主張の強い鮮やかなカラーではなく、控えめな色合いなのがこの映画にピッタリだと感じました。
モノクロで描かれる自主映画のような世界観と、登場人物たちの自然な会話を楽しんでいただきたい作品です。
【STORY】
長らく執筆から遠ざかっている著名作家のジュニが、音信不通になっていた後輩を訪ねる。
ソウルから離れた旅先で偶然出会ったのは、第一線を退いた人気女優のギルス。
初対面ながらギルスに興味を持ったジュニは、彼女を主役に短編映画を撮りたい、と予想外の提案を持ち掛ける。
かつて名声を得ながらも内に葛藤を抱えたふたりの思いがけないコラボレーションの行方は……。
【REVIEW】
作家のジュニを演じるのは、韓国のベテラン女優イ・ヘヨン。
女優のギルスを演じるのは、ホン監督の公私にわたるパートナー、キム・ミニ。
この二人が演じる作家と女優が偶然出会い、人生の新たな可能性に向かって共に歩みだす物語。
終始繰り広げられる自然な会話が主役と言ってもいいだろう。
登場時人物たちが理路整然と台詞を順に口にしていく映画ではない。
ある時は、同時に二人が喋ったり、またある時は、わ~っと会話が盛り上がった後にふと言葉が途絶えて気まずい雰囲気がほんの一瞬漂ったり。
実生活でもよくある、そんな自然な会話が続いていく。
大きな事件が起こったり、誰かを裏切ったり、裏切られたり、恋愛に悩んだり、苦難を乗り越えたり……という展開はない。
しかし、それぞれの人物の背景に何があるのかを想像するという面白さがある。
例えば最初のシーンで、作家のジュニとしばらくぶりに会った後輩の女性は何か思うことがあって書くことをやめたのだが、それは語られない。
曖昧な受け答えのまま話が進んでいくから、我々観客は「何があった?」と、想像を膨らませることになる。
結局は、過去を振り返ることよりも前を向いて歩きだすことが大切だと彼女たちが教えてくれ、ラストには味わい深い余韻が残る。
ほんの少し立ち止まっていた女性たちが、偶然の出会いによって、また新たな可能性に向かって歩き出す物語。
監督:ホン・サンス
出演:イ・へヨン、キム・ミニ、ソ・ヨンファ、パク・ミソ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、キ・ジュボン、イ・ユンミ、キム・シハ
2022年/韓国/92分/配給:ミモザフィルムズ
http://mimosafilms.com/hongsangsoo/
6月30日(金)~全国公開
関西ではシネ・リーブル梅田 シネマート心斎橋 アップリンク京都 シネ・リーブル神戸など