金曜の夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介したのは、本日8月25日(金)から全国公開のイラン映画『君は行く先を知らない』という作品。
イランの荒野を車で移動する家族のロードムービーで、シンプルでありながらユーモアとペーソス、そしてサスペンスに富んだ物語です。
世界的巨匠として知られる、イランのジャファル・パナヒ監督を父に持つパナー・パナヒ監督の長編デビュー作。
永遠の別れになるかもしれない家族の旅を描いたこの映画には、監督がイラン国内で実際に見聞きしたエピソードが反映されているそうです。
家族の別れ……という悲しい話を悲しく描くのではなく、あえてユーモラスに描いているところが、私のおススメポイントです。
【STORY】
イランの国境近くを車で旅している4人家族と1匹の犬。
幼い次男が家族旅行に大はしゃぎする中、怪我をしている父は悪態をつき、母は昔の流行歌を口ずさみ、成人したばかりの長男は無言でハンドルを握っている。
車はどこへ向かうのか? 何が一家を待ち受けているのか? 大人たちが口に出さないこの旅の目的が明らかになる時、私たちは深い感動に包まれる――。
【REVIEW】
砂漠を走る車の後部座席には、足に大きなギプスをつけた父親と、そのギプスに描かれたピアノを奏でる仕草で遊ぶ6~7歳の男の子が乗っている。
助手席には少し疲れた表情の母親、ハンドルを握るのは長男、そして車の最後部にはジェシーという高齢の犬。
「後ろの車が尾行しているみたい」と母親が心配そうに言う。
この家族は誰かに追われているのか? どこに向かっているのだろう? 何も知らないのは小さな男の子(次男)と犬だけのようだ。
長男が、「最後の最後なのに!」と叫ぶシーンや、涙を流しながら運転するシーンがあるので、近いうちにこの家族に別れがやってくるのは想像できる。
どんな事情で、何処へ行き、何が待ち受けているのだろうか。
次男役ラヤン・サルアクという男の子(撮影当時6歳)の天真爛漫さに魅了される。
あどけないのにしたたかで、タジタジとなる父親とのユーモラスな会話が笑える。
もしかすると次男は、何も知らないようで本当は家族の事情を感じとっているのかも……と、こちらは深読みしたりする。
また、私たちの国にはない、イランの広大な砂漠や高原を車で走る映像にも圧倒される。
石畳のように見える硬い砂漠の土、私たちの国とは異なる国柄、習慣、宗教などに思いを馳せながら、私たちはこの家族の別れの旅に同伴するのだ。
複雑な人間関係や大きな事件が絡んでくることもなく、ただただ車で何処かへ必死で向かう家族の物語~そんなシンプルな物語なのに、見ごたえあり!
監督:パナー・パナヒ
出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ラヤン・サルラク、アミン・シミアル
2021年/イラン/93分/配給:フラッグ
https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/
8月25日(金)~関西では、京都シネマ シネ・リーブル梅田 シネ・リーブル神戸などで公開。