金曜の夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週のとっておきの映画は、大阪府出身の加藤拓也監督の長編映画2作目で、9月8日(金)公開の日本映画『ほつれる』。
加藤監督は、第 30 回読売演劇大賞優秀演出家賞、第 67 回岸田國士戯曲賞を受賞するなど、演劇界で注目を集める気鋭の演出家です。
人とのつながりや、人生の在り方を見つめ直していくひとりの人間を通して、観る者の心へ静かに問いを投げかける作品。
門脇麦さんが主人公・綿子を演じ、揺れる心の機微を繊細な佇まいで演じています。
夫の文則には田村健太郎さん、綿子の恋人・木村を染谷将太さん、綿子の親友・英梨を黒木華さんという実力派俳優陣が集結しました。
上映時間84分というコンパクトな作品で、とても良質な短編小説を読んでいるような、そんな映画です。
【STORY】
綿子と夫・文則の関係は冷め切っていた。
綿子は友人の紹介で知り合った木村と頻繁に会うようになっていたが、あるとき木村は綿子の目の前で事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。
心の支えとなっていた木村の死を受け入れることができないまま、変わらない日常を過ごす綿子。
揺れ動く心を抱え、木村との思い出の地をたどる…。
過去を振り返るうち、綿子は夫や周囲の人々、そして自分自身と、ゆっくりと対峙していくことになる。
【REVIEW】
タイトルの「ほつれる」という言葉は、縫い目や編み目などがほどけることを意味する。
夫とは違う男性との穏やかな時間を心の支えにしていた主人公の人生が、男性の突然の死でほつれていく……物語。
主人公と夫との関係は、マンションの同じ部屋に住みながら、妻は寝室で寝て夫はリビングのソファで寝ているという関係。
そうなるにはそうなるだけの出来事があった、ということが徐々にわかってくる。
夫婦としては冷え切っているが、離婚するわけでもない。
夫の行動に不満を持っていた主人公は、それを口に出さず、一夜を共にするような仲の男性との時間を心の支えにしている。
二人だけの時間を過ごしたある夜、男性からお揃いの指輪を貰うが、その指輪が彼の死後に波紋を広げていく……。
目をそらしていた問題と向き合おうとするとき、人はどんな表情をしているのか。
現実に突きあたり、苦しみながらもゆっくりと答えへと向かう綿子を演じる門脇麦の演技が素晴らしい。
主人公の「気づかないふりをしてきた“ほつれ”」が、ゆっくり広がっていく様子がじわじわと観る者に迫ってくる。
一度ほつれたものは修復しても完璧に元には戻せない。
ラストシーンは、辛いでもなく、悲しいでもなく、「そうだよね、それしかないよね」と誰もが思うのではないだろうか?
監督・脚本:加藤拓也
出演:門脇麦 田村健太郎 染谷将太 黒木華 古舘寛治
2023 年/日本・フランス/カラー/配給:ビターズ・エンド
https://bitters.co.jp/hotsureru/
9 月 8 日(金)より全国公開
シネ・リーブル梅田/なんばパークスシネマ/MOVIX 京都/シネ・リーブル神戸、他