金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した映画は、サリー・ホーキンス主演、スティーヴン・フリアーズ監督の『ロスト・キング 500年越しの運命』。
500年間も行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨を発見した、フィリッパ・ラングレーという女性の奮闘を映画化した作品です。
『2人の子どもを持つ母親が、駐車場で、行方不明だった国王を発見』という新聞の見出しにインスピレーションを得た、スリリングかつユーモラスな物語!
【STORY】
フィリッパは夫と別居し、息子2人と暮らしている。
職場で上司から理不尽な評価をされ、退職したいのだが、夫からは生活のために仕事を続けるよう促されていた。
そんなある日、彼女は息子の付き添いでシェイクスピアの『リチャード三世』を観劇し、ある疑問を抱く。
それは、主人公である悪名高き英国王リチャード3世が、本当に世間一般に言われているような冷酷非情の王だったのかという疑問だ。
実際は自分と同じように、正当な評価をされず不当に扱われてきたのではないかとの疑問から、フィリッパはリチャード3世の研究にのめり込む。
そして、1485年に死去した後に近くの川に投げ込まれたと考えられている、リチャード3世の遺骨探しを開始する。
【REVIEW】
500年以上も行方不明だった英国ド王リチャード3世の遺骨が、2012年に英国レスターにある教会跡地の駐車場から発掘され、世界的な話題となった。
遺骨はその後、レスター大聖堂へ再埋葬されたが、本作はその“リチャード3世遺骨発掘の経緯”を描いた作品である。
物語の主人公フィリッパは45歳。
持病のせいで上司から正当に評価されない自分と、シェイクスピアの戯曲によって冷酷非情な王として不当に評価されてしまっているリチャード3世を重ねる。
リチャード3世の名誉回復のために奔走しまくるフィリッパは、自らの直感と信念に従い、誰に反対されても決して諦めない。
関連本や資料を読み漁り、遺体は川に捨てられたとか、行方不明などと認識されていた、王の墓の手がかりを見つけ出す。
これまで、誰もが「あのシェイクスピアが言うんだから間違いない」と思い込んでいた英国王室の歴史を覆したのだ。
日本でも世界でも、歴史というのは常に勝者の視点から書かれている。
おそらくシェイクスピアは、彼が生きた当時の王朝(リチャード3世を滅ぼしたヘンリー7世から続く家系)に寄り添った物語を描いたのだろう。
映画の中で、「嘘も繰り返すと真実になる」という台詞があったが、その真実を覆したのが2人の息子を持つワーキングマザー、ということに驚く。
物語のモデルとなったフィリッパ・ラングレーさんは、主婦でありアマチュア歴史家で、日本風に言えば「歴女」だろうか。
フィリッパは「リチャード3世協会(日本にもあるらしい!)エジンバラ支部」に入会し、ユニークな同志たちと議論する。
また、フィリッパにしか見えないリチャード3世の幻影から「少し病的な執着に見える」と言われてしまったりもする。
ややこしい英国の歴史に関する会話が多い中、そんな少しユーモラスなシーンでは肩の力が抜けて楽しめる。
余談だが、遺骨のDNA鑑定によって、俳優のベネディクト・カンバーバッチはリチャード3世の遠い血縁者だと判明したそうだ。
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ
出演:サリー・ホーキンス、スティーヴ・クーガン、ハリー・ロイド、マーク・アディ
2022年/イギリス/108分/配給:カルチュア・パブリッシャーズ
https://culture-pub.jp/lostking/
9月22日(金)~大阪ステーションシティシネマ TOHOシネマズ西宮OSなど
上映劇場が変更となる場合がありますので、鑑賞の前に必ず劇場にご確認ください。