【とっておきシネマ】アメリカ映画『コール・ジェーンー女性たちの秘密の電話ー』

2024.03.23

鳥飼美紀が金曜の夜9時からお送りしている「とっておきシネマ」。
今週は、アメリカ映画『コール・ジェーンー女性たちの秘密の電話ー』をご紹介しました。
女性の選択の権利としての人工妊娠中絶を描いた実話を基にした作品です。

～鳥飼美紀のシネマエッセイ～
1960年代から197０年代初めにかけてアメリカで放送されたテレビドラマ『奥さまは魔女』。
日本でも吹替版で放送されたが、私がそのドラマを見始めたのは何歳だったのか記憶はあやふやだ。
タイトルからわかるとおり、実はサマンサは魔女でいざとなれば鼻をピコピコ動かして魔法を使う。
そんなコメディタッチの一話完結ドラマを、気がつけば毎週楽しみにしていた。
アメリカの中流家庭の生活や主人公サマンサのファッションに憧れ、大人になってからも再放送を何度も見ていた。
美しく知的なサマンサは、家庭の主婦として家事をすべてこなし、働く夫ダーリンを陰になり日向になり支える。

映画『コール・ジェーンー女性たちの秘密の電話ー』の主人公ジョイを、『奥さまは魔女』のサマンサに重ねてみた。
裕福な家庭で主婦として何不自由なく暮らすジョイは、弁護士の夫と1人娘との３人家族。
時代は60年代、ヘアスタイル、ファッション、インテリア、そして家族構成……まさにサマンサである。
異なるのは、サマンサは魔女でジョイはごく普通の人間の女性だということ。
しかし、２人目の子供を妊娠して心臓の病が発覚し、中絶を決心するが病院も夫も法律もそれを許してくれないことで、ジョイは普通の女性から行動する女性に変身する。
彼女はアンダーグラウンドな団体「ジェーン」で、違法だが安全な中絶手術を受ける。
そして自身の経験から「当事者である女性に中絶を選択する権利がないのはおかしい」と思い、「ジェーン」で積極的に活動するようになり、誰も考え及ばなかったことにみずから手を挙げて挑む。
ジョイは、随分な胆力の持ち主だったのだ。

映画は「ジェーン」の団体活動よりジョイ個人の心の変化と行動を中心に描かれるので、観客は傍観者としてではなく自分事として観ることになるのではないか。
生々しい映像こそないが、中絶のシーンは手順が施術者によって事細かに説明されるから、私のように気の小さい者は動悸が激しくなる。
たしかに、女性が自身で選択できないのはおかしい。
しかし、せっかく芽生えた命をなかったことにしていいのか……という思いもあり、映画を観終わった後も私の心の中では葛藤が続いている。

【ストーリー】
1968年、アメリカのシカゴ。
裕福な家の主婦として生きるジョイは何不自由ない暮らしを送っていたが、2人目の子供の妊娠によって心臓の病気が悪化してしまう。
唯一の治療は、妊娠をやめることだと担当医に言われ中絶を申し出るが、中絶が法律的に許されていない時代、地元の病院の責任者である男性全員から「中絶は反対だ」と、あっさり拒否されてしまう。
そんな中、街で偶然「妊娠？助けが必要？ジェーンに電話を」という張り紙を見つけ、違法だが安全な中絶手術を提供するアンダーグラウンドな団体「ジェーン」にたどり着く。
その後、ジョイは「ジェーン」の一員となり、自分と同じ立場で中絶が必要な女性たちを救うために立ち上がる！

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