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とっておきシネマ

【とっておきシネマ】4月5日(金)アメリカ映画『オッペンハイマー』

毎週金曜日に配信、っておきシネマ」鳥飼美紀です。
ポッドキャストでご紹介する映画の第1作は、今年のアカデミー賞®で作品賞や監督賞など、最多7部門で受賞したアメリカ映画『オッペンハイマー』です。
原作は、カイ・バード、マーティン・J・シャーウィンのピューリッツアー賞受賞作「オッペンハイマー」(ハヤカワ文庫)。
監督はクリストファー・ノーラン。既に、3月29日から全国での公開が始まっています。
「原爆の父」と称された天才科学者ロバート・オッペンハイマーの物語は、日本人としては複雑な思いがありつつも、興味深いシーンがたくさん描かれているので、ぜひご覧いただきたい作品です。

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

~鳥飼美紀のシネマエッセイ~
映画を観ていると、時々自分とよく似た人物が登場することがある。
姿かたちではなく、その人物のマインド(精神)や信念に共感を覚えるのだ。
映画『オッペンハイマー』で、原爆開発に成功した主人公の天才科学者ロバート・オッペンハイマーは、戦後にソ連のスパイ容疑をかけられ聴聞会で厳しく問い詰められる。
多くの証言者が登場し、狡猾な同僚が彼に不利な証言をするのだが、証言後にオッペンハイマーは紳士的にもその同僚の握手に応える。
その態度をオッペンハイマーの妻キティは非難するのだ。
彼女は後に夫が名誉回復した時にも、その同僚の挨拶に応えることはなかった。
意固地だな……と思いつつ、私もそうするだろうと苦笑した。
そしてキティ自身が証言席に座った時、堂々とした態度で臨んだことにも敬意を抱き、そのきっぱりとした性格に私は大いに共感した。
ただし、彼女は夫と同じく科学者で聡明な頭脳を持ち、さらにオッペンハイマーとの結婚以前に3度の離婚歴があるというパワフルな人物で、極めて平凡な私とは比べものにはならないのだけれど……。

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

さて、上映時間3時間という大作映画『オッペンハイマー』は、日本人としては物語の前半と後半で全く違った感情になるのではないだろうか。
若きオッペンハイマーが、苦手な実験物理学から理論物理学へ転向し才能を開花させ、同時に2人の女性との恋愛が描かれる前半は、客観的かつ冷静に彼を観察できるはず。
けれども、原爆開発極秘プロジェクトに参加し、研究・実験が成功するあたりから、私たち日本人は複雑な感情に支配され始めるだろう。
「原爆が完成すれば、日本へ投下される」という事実を既に私たちは知っているし、その惨状も何らかの形で目にしているからだ。
少なくとも私は、スクリーンの中で実験成功に歓声を上げる科学者たちを苦い思いで眺め、幾重にも湧き上がる爆発の映像に身体中の血液が逆流するような怒りとも悲しみともつかない感情に襲われた。
もう客観的な視点では観ていられない。
その後のオッペンハイマーの苦悩など何の慰めにもならない。
あれほどまでに凄まじい殺戮兵器を、神は何のために人類に与えたのだろう。
オッペンハイマーたちは「原爆が世界の戦争を終わらせる」と考えていたようだが、戦争は形を変えて今現在も地球上のいたる所で繰り返されている……。
監督のクリストファー・ノーランは「なぜ彼らがこんなことをしたのか人々に理解させることと同時に、それをすべきだったのかを問う」と語っている。
私はオッペンハイマーらのしたことを理解すること自体が怖いと思う……日本人として。
その反面、どうしてもやらなければならないことだったとしたら、彼ら以外にやらせるべきではなかっただろうとも思う。
そんな風に、心の中と頭の中をかき乱される作品に初めて出会ったような気がする。
原爆投下の描写が無いことを評価する人々も多いが、原爆投下直後の被爆地の映像を世界中の人々に観てもらい、その惨状を心に焼き付けてほしかったと、個人的にはそう思う。

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

【STORY】
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。
これに参加した ロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。
そして、冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。

監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー エミリー・ブラント マット・デイモン ロバート・ダウニーJr. フローレンス・ビュー ジョシュ・ハートネット ケイシー・アフレック ラミ・マレック ケネス・ブラナー
原作:カイ・バード マーティン・J・シャーウィン「オッペンハイマー」(2006年ピューリッツァー賞受賞/ハヤカワ文庫)
2023年/アメリカ/カラー・モノクロ/180分
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画 https://www.oppenheimermovie.jp/#modal


映画「オッペンハイマー」オリジナルサウンドトラック

【とっておきシネマ】
ハニーFMポッドキャストで配信しています。(再生ボタン▶を押すと番組が始まります)

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