今週のとっておきの1本は、戊辰戦争を背景に、11人の罪人たちが藩の命令により命がけの任に就く姿を描いた『十一人の賊軍』（現在公開中）です。白石和彌監督、山田孝之さんと仲野太賀さんがW主演を務めたダイナミックな時代劇アクション。豪華キャストにも注目です。
©2024「十一人の賊軍」製作委員会
～シネマエッセイ～
仲野太賀を初めて見たのは、テレビドラマ『ゆとりですがなにか』（16）である。主人公の後輩社員役で、パワハラ被害を訴え周囲を振り回す“ゆとりモンスター”な若者を怪演していた。一度見ただけで「巧い」と思い、それから私のお気に入り俳優の一人になった。その仲野太賀は、小学生の時に見たドラマ『WATER BOYS』（03）で主演していた山田孝之に憧れを抱いたという。その山田孝之主演の映画『手紙』（06）を観て、私は座席から立ち上がれないほど号泣したことを今でも鮮明に憶えている。東野圭吾の原作で、犯罪者を兄に持つ主人公が加害者の家族として生きていく難しさを描いた作品だった。原作の主人公はアマチュアのバンドマンだったが、映画では売れない漫才師の設定で山田が演じていた。私を号泣させたのは、山田の演技というより物語が綺麗ごとではなく現実をリアルに描いていたからこその感動だった。しかし、それから15年後、NHK大河ドラマ『どうする家康』（23）の服部半蔵役の山田孝之はとても魅力的だった。なんとも自信とやる気のない半蔵役で、どこか滑稽な雰囲気を醸し出していた彼は、それから私のお気に入り俳優の一人になった。
さて、そんなお気に入りの仲野太賀と山田孝之がW主演の映画『十一人の賊軍』が、現在公開中である。戊辰戦争を舞台に、十一人の死罪人が「成功すれば無罪放免にしてやる」という家老の言葉を信じて、大砲で威嚇する官軍から砦を守るのだ。罪人たちは正義のために戦うのではない。自分が生き延びるためにはそれしか道はないのだった。待っているのは虚しくも悲惨な、そして理不尽な結末である。
その結末を知っているのは阿部サダヲ演じる家老である。善人、悪人、凡人、怪人……、どんな役をやっても人間のしたたかさが匂い出る個性的な俳優だ。彼は『彼女がその名を知らない鳥たち』（17）で究極の愛を表現し、大きな感動を私に与えてくれた。そして、その映画の監督が今回の『十一人の賊軍』でメガホンを取った、白石和彌監督。お気に入りの俳優と監督が揃い踏み……となると、気にならないはずがない。美しくダイナミックな風景、凄まじい戦闘シーン、一癖二癖ある登場人物たち、救いのない結末……は、平凡を生きる私の心を大きく揺さぶるエンターテインメント作品だった。束の間、大きなスクリーンの前で圧倒される時間を過ごすのも悪くないと思う。
©2024「十一人の賊軍」製作委員会
1868年、日本は二つに分裂し、戊辰戦争が勃発。新政府派「官軍」によって旧幕府軍は東国へと追い詰められていた。密かに旧幕府派の同盟軍から官軍への寝返りを画策する新発田藩は、両軍が藩内で鉢合わせすることを避けるため、一計を案じる。それは、死罪になるべき人道を外れた十一人の罪人たちに命じた「砦を守る作戦」だ。同盟軍が藩外へ去るまで官軍を砦に侵攻させないという、命がけの過酷なミッションである。死を覚悟していた罪人たちは“勝てば無罪放免”という約束を信じ、「生きる」という一筋の希望を胸に圧倒的不利なミッションに挑む。果たして、彼らは未来をつかみ取ることができるのか。新発田藩、同盟軍、官軍……三者の思惑が交錯する中、十一人の壮絶な戦いが始まる。
©2024「十一人の賊軍」製作委員会
監督：白石和彌
出演：山田孝之 仲野太賀 尾上右近 鞘師里保 佐久本宝 千原せいじ 岡山天音 松浦祐也 一ノ瀬颯 小柳亮太 本山力／玉木宏 阿部サダヲ ほか
2024年製作／155分／PG12／日本／配給：東映
https://11zokugun.com/
11月1日（金）から全国公開中
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