今週のとっておきの1本は、韓国で2016年に起きた振り込め詐欺事件をモチーフに、被害者と詐欺師が手を組むという斬新な設定から展開していく『市民捜査官ドッキ』。主人公を演じるラ・ミランの切羽詰まりっぷりが、ユーモラスでありながら切実そのもの。自分もいつ詐欺に遭うかわからないと肝に銘じながら観たい、スリリングで爽快な追跡物語です。
~シネマエッセイ~
半世紀以上も前の話である。私が小学6年生の頃、大阪の天神橋筋商店街で素敵な洋服を買ってもらった。特別な行事でもあったのか理由は憶えていないが、当時としてはかなり高価なワンピースだった。百貨店ではなく天神橋筋商店街というのが、その頃の我が家では精一杯の贅沢だった。オフホワイトのハイネックの身頃に、厚みのある茶色の革製のミニスカートで、同じ革のベストがセットになっていた。お気に入りの一張羅となり、何度か着た後に母がクリーニングに出してくれたのだが、返ってきたそのワンピースを見て驚く。茶色のふっくらした革のスカートだったはずが、似ても似つかぬ緑色の皺だらけの薄い革スカートになっている。母は店に「こんなスカートではなかった」と交渉したが、店側は「もとからこの色で、この種類の革でした」と譲らなかったという。根負けした母が一度持ち帰り、クリーニングに出していなかったベストと一緒に持って行き「これと対だったのですよ」と言うと、やっと認めて弁償してくれたらしい。けれども、まったく違うニュアンスになったそのワンピースを、私はそれから着た記憶がない。おそらく革の取り扱いに失敗して、適当に探してきた革を縫い付けていたのだろう。現在では考えられない対応だ。「クリーニング店」と聞いて真っ先に浮かぶ、私の残念な記憶である。
クリーニング店の火災で経済的に追い込まれたドッキに、取引銀行の職員を名乗るソン代理から融資商品の勧誘電話がかかってくる。巧みな話術に騙され、8回にわたり手数料を振り込んだドッキは、すべての送金を終えた直後に詐欺であることに気づく。数千万ウォンという大損害を受けた彼女は警察に相談するも、大規模な事件対応に追われた刑事たちは動いてくれない。絶望に沈むドッキに再びかかってきた一本の電話——「振り込め詐欺について全部話すから、組織から脱出させてほしい」というソン代理からのSOSが、彼女の運命を一変させる。
監督:パク・ヨンジュ
出演:ラ・ミラン、コンミョン、ヨム・ヘラン、パク・ビョンウン、チャン・ユンジュ、 イ・ムセン、アン・ウンジン
2024年/韓国/114分/配給:クロックワークス
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公式サイト: https://klockworx.com/movies/duk-hee/
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