今週のとっておきの1本は、イタリアの国民的コメディエンヌであるパオラ・コルテッレージの監督デビュー作、『ドマーニ! 愛のことづて』です。人生の後悔や心の痛みを抱えながらも、それでも生きていくため自らの権利と次代への想いを、“とある手紙”に託した女性たちの人生賛歌をユーモラスに描いた作品。本国イタリアでは600万人を動員した大ヒット作です。現在、全国順次公開中。

©2023 WILDSIDE S.r.l – VISION DISTRIBUTION S.p.A
~シネマエッセイ~
映画『ドマーニ! 愛のことづて』は、戦後すぐの時代に生きた人々の物語。舞台はイタリア。当たり前のこととして受け入れざるを得ない”抑圧”に直面していた女性たちの、絶望やその中に芽生えた小さな希望が描かれているという。鍵となるのは主人公の元に届いた1通の手紙のようだ。私にしてはめずらしくまだこの映画を観ていない。だから、その手紙が誰からのどんな手紙だったのかを知らない。主人公がその手紙を読んで、どんな行動をとったのか……結末が気になって仕方がないのである。
さて、ふと思いたって納戸から古い手紙の入った箱を引っ張り出してみた。それらは現在の家に引っ越してからのもので、それ以前の手紙は2階のクローゼットに保管してある。引っ越して30年ほどになるが、最近はメールやラインで事を済ませるので、箱に入っている手紙の数はさほど多くはない。1通1通封筒から出して読んでみる。誕生日や転勤を祝ってくれたカード、他府県に住む友人からの近況報告、どれもこれも懐かしい。とてもじゃないが断捨離と称して処分はできない……と思う。手紙は、染みがついていたり黄ばんでいたりしているが、書かれた文字は“その人”そのもので、顔を思い浮かべるどころか声まで聴こえてきそうである。そんな中に、仕事で大変お世話になったMさんという大先輩からの手紙が5通あった。手紙を頂いていたことも忘れていたし、私がどんな返事を書いていたのかも記憶に残っていない。ただ、あるとき職場にMさんが突然訪ねてきてくれたことがあった。退職後、九州に引っ越したはずなのに……と驚いたが、10分ほど立ち話をして職場の玄関で見送った。その後ろ姿を見て、なぜか私は「Mさんと会うのは、これが最後になる」と思ったのだった。それからしばらくして、Mさんはふいに天国へ旅立った……。あの日、彼は私に“お別れ”を言いに来てくれたのだ。言葉にしなくても、私の心にはちゃんと伝わっていた。読み返したMさんからの手紙の最後には、「無理をしては駄目、身体を壊さないで」と必ず書かれている。遠くから父親のように愛情深く見守ってくれていたことに、今更ではあるが胸がいっぱいになる。年月とともに記憶は曖昧になってくるが、手紙にしたためられた思いはいつまでも残る。やはり…手紙は断捨離できない私なのだ。

©2023 WILDSIDE S.r.l – VISION DISTRIBUTION S.p.A

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1946年5月、戦後まもないローマ。デリアは家族と一緒に半地下の家で暮らしている。夫イヴァーノはことあるごとにデリアに手を上げ、意地悪な義父オットリーノは寝たきりで介護しなければならない。夫の暴力に悩みながらも家事をこなし、いくつもの仕事を掛け持ちして家計を助けている。多忙で過酷な生活ではあるが、市場で青果店を営む友人のマリーザや、デリアに好意を寄せる自動車工のニーノと過ごす時間が唯一の心休まるとき。母の生き方に不満を感じている長女マルチェッラは裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、彼の家族を貧しい我が家に招いて昼食会を開くことになる。そんなデリアのもとに1通の謎めいた手紙が届き、彼女は「まだ明日がある」と新たな旅立ちを決意する―。

©2023 WILDSIDE S.r.l – VISION DISTRIBUTION S.p.A

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監督:パオラ・コルテッレージ
脚本:フリオ・アンドレオッティ ジュリア・カレンダ パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ、ヴァレリオ・マスタンドレア、ジョルジョ・コランジェ
リ、ヴィニーチオ・マルキオーニ
2023/イタリア/原題:C’è ancora domani/118分/日本語字幕:岡本太郎/配給:スモモ
https://www.sumomo-inc.com/domani
3月14日(金)から全国順次公開中
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