今週は、イギリスの戯曲を基にした社会派ヒューマンドラマ『ラ・コシーナ/厨房』をご紹介します。アーノルド・ウェスカー作の戯曲は60年以上前に初演、日本でも2005年に上演されたそうです。映画は物語の舞台をイギリスからアメリカに移し、混沌としたレストランの裏⽅で巻き起こるたった1⽇の騒動を描いています。不法労働移⺠の働くブラックな職場、人種の違い、⽂化の違い、政治の違い……鬱憤の破裂の仕方が凄まじく、正気とは思えないクライマックス! モノクロ映画ということを忘れてしまうほどの熱量を発している強烈な作品です。

©COPYRIGHT ZONA CERO CINE 2023
【シネマエッセイ】
炭酸飲料が大好きでコカ・コーラは常に冷蔵庫にあるのに、チェリー・コークという飲み物を飲んだことがなかった。それもそのはず、ネットで調べてみるとアメリカのコカ・コーラの商品のひとつで80年代に日本でも発売されたようだが、あまりヒットしなかったらしい。サクランボ味のコーラだと思うと、サクランボに味のインパクトがないから、ちょっと想像ができない。もしかしたらアメリカンチェリー味のコーラかな?……となると、何となくわかるような気がする。私はどちらかというと高級なサクランボより、リーズナブルなアメリカンチェリーのほうが好きだから。いや正直に言うと、サクランボは高級がゆえにあまり食べたことがないので味の記憶が薄い。かたや、そろそろ旬を迎えるアメリカンチェリーなら気軽に毎日食べるから、味もしっかり憶えているのだ。さてアメリカンなチェリーコーク、輸入品ならネットで手に入れられるようだが、このところの円安のためか24缶入りで1万9000円(1缶800円!)もする。どこかでバラ売りを見かけたら、ぜひ味見をしてみたいものだ。
映画『ラ・コシーナ/厨房』では、チェリー・コークが大活躍(?)する。それは映画を観てのお楽しみだけれど、アメリカ人はチェリー・コークが大好きなのだろう。レストランの厨房には、でっかいグラスをセットしてチェリー・コークをたっぷり注ぐマシーンが据えられている。そんなチェリー・コークマシーンを巻き込んでの厨房でのカオスは、深刻さを通り越して笑えてくる。しかし、これからのアメリカは、もしかしたら働く移民にとってもっと精神的に過酷になるかもしれない。ただ面白いだけの映画ではないのだ。

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ニューヨークの観光客向け大型レストラン「ザ・グリル」の厨房は、いつも目の回るような忙しさ。ある朝、店の売上金の一部がなくなり消えスタッフ全員に疑いがかけられる。加えて次々に新しいトラブルが勃発し、料理人やウェイトレスたちのストレスはピークに。カオスと化した厨房での一日は、無事に終わるのだろうか…。

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監督・脚本:アロンソ・ルイスパラシオス
原作:アーノルド・ウェスカー「調理場」(晶⽂社刊「ウェスカー全作品2」に収録)
出演:ラウル・ブリオネス、ルーニー・マーラ、アンナ・ディアス、モーテル・フォスター、エドゥアルド・オルモス
2024 年/メキシコ、アメリカ/英語、スペイン語/139分/配給:SUNDAE
https://sundae-films.com/la-cocina/
6月13日(金)全国公開
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