今週は、村田沙耶香さん原作の『消滅世界』をご紹介しましょう。~結婚生活に性愛が入ることを禁じられた世界で、愛し合った夫婦から生まれた少女が、自分の周りにある“普通”と自分から湧き出る欲情に向き合っていく物語~という紹介文を読んで少し戸惑ったものの、主演の蒔田彩珠さんに惹かれて観てみました。SFのような設定だけれど、この先あり得なくもない設定です。普通が普通でなくなった世界で、蒔田彩珠さん演じる主人公は、果たして自分の思う正しい生き方を選ぶことができるのでしょうか。とても衝撃的で、とても興味深い作品です。

@2025「消滅世界」製作委員会
シネマエッセイ
年下の友人と、平日ドライブランチに出かけた。彼女は美味しいお店を見つける天才で、ふたりで食事に行く時はいつもお任せ。今回は丹波にある酒造場の発酵まかないカフェ「小鼓御里」。地元の食材をせいろで蒸した料理は身体と心に優しそう……。自宅近くでピックアップしてもらい高速道路を北へと走る。晩秋の丹波路にはゆるい紅葉が山々に広がっている。クッキリと色鮮やかな紅葉ではないところが控えめで好もしい。あれこれお喋りしながら(ほとんど私が喋っていたが)45分ほどで到着。酒蔵をレストランにしたのだろう、自動扉が開くと高い天井と奥行きのあるフロアがどどーんと広がっている。大きな酒樽を半分にした座席がユニークで、友人は年嵩の私を酒樽の中に座らせてくれた。選んだメニューは「木枡せいろの白いメレンゲオムライス」と「黒豆茶」。自家製甘酒トマトソースと丹波地鶏のチキンライスの上にふんわりと真っ白なメレンゲがのっている!スプーンを入れると、意外とメレンゲはボリューミーである。チキンライスの味付けは少々薄めなので、トマトソースをのせてバクバクいただける。メレンゲの誇らしげな白さに、私は先日試写で観た『消滅世界』という映画を思い出した。人工授精で子どもを作るのが当たり前、夫婦の営みはタブーという設定で、主人公夫婦が行き着く先は、集団で人工授精をし生まれた子どもを集団で育てる実験都市。物語が進むにつれて「愛とは、夫婦とは何ぞや?」と自分の認識がこんがらがってくるような気がした。「これだけ人工授精の技術が発達したら、あり得ない未来とは言えないかもしれない。それって正しいことなのか……」という話をしたら、友人は少し考えて、「でも、人間(大きく言えば人類)って、後戻りもできると思う」と言う。例えば、コロナ禍で広がったリモートワークやリモート会議などは、コミュニケーション不足からくるデメリットに気がつき、現在は減少傾向にあるという。なるほど、人間は進み過ぎてマズイとなれば後戻りすることもできるのだ。映画に出てくる実験都市のテーマカラーは「白」だった。結末は言えないが、どんどん自分の色を失くして白に近づいていく主人公たちは、後戻りできるのだろうか……。真っ白なオムライスを食べ終えた私たちは、来た道を後戻りして“別腹”と言い訳をしながら、道の駅で美味しいぜんざいを食べたのだった。

@2025「消滅世界」製作委員会

@2025「消滅世界」製作委員会
ストーリー
人工授精での妊娠・出産が常識となった時代に、愛し合った両親から生まれた雨音は異質な存在だった。アニメのキャラクターと恋愛をし、夫とは性愛を持ちこまない穏やかな結婚生活を楽しむ毎日。その頃、住民全体で計画的に人工授精、出産、管理を行い、住民みんなで子育てをする実験都市が千葉に生まれていた。“エデン”と呼ばれるその地に移住することにした雨音と夫だったが……。

@2025「消滅世界」製作委員会
監督・脚本:川村誠
原作:村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)
出演:蒔田彩珠 栁俊太郎 恒松祐里 結木滉星 富田健太郎 清水尚弥 松浦りょう 岩田奏 落井実結子 /山中崇/眞島秀和/霧島れいか
配給:NAKACHIKA PICTURES @2025「消滅世界」製作委員会
11月28日(金)新宿シネマカリテ他全国公開
