今週のとっておきの1本は、1991年のポーランドを舞台に、NYで生まれ育った娘と約50年ぶりに祖国に戻った父が繰り広げる異色のロードムービー『旅の終わりのたからもの』です。とてもチャーミングな父娘の、ちぐはぐで痛くて忘れられない旅をユーモラスに描いた作品。原作はホロコーストを生き抜いた父を持つオーストラリアの著名な作家、リリー・ブレットが実体験をもとに書き上げた小説「Too Many Men」。

© 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS
シネマエッセイ
旅に出るなら列車が好もしいと、個人的にはそう思う。もしかしたら鉄子?と思われるかもしれないが、そうではない。正直に言うと、飛行機は飛ぶ理屈に納得できないから、また船旅はカナヅチだから、どちらも怖くて旅を楽しめない。その思いは年を重ねるごとに強くなり、海外旅行は別として国内旅行は殆ど列車を使う。飛行機にしても船にしても、それぞれの楽しさがあるのだろうが、私の列車旅のお楽しみは「駅弁」である。とは言え、お弁当の中身は何でもいい。とにかく列車の中でお弁当を食べるのが好きなのだ。何でこんなに美味しいのだろう?と毎回思う。車窓を流れていく景色を眺めながら、冷めても美味しいように工夫されたお弁当をいただくのは、やはり非日常の空間だから。心地よい揺れに身をまかせ、旅の始めならその期待、旅の終わりならその満足感と共に味わうからだろうか。作家の森下典子さんが、『幸せの配分』(文春文庫『いとしいたべもの』)というエッセイで崎陽軒のシウマイ弁当を絶賛している。お弁当の中身を幸せな人生に喩えて、折箱の紐を解くところから食べ終わって紐を結び直すまでの描写は、シウマイ弁当ファンではなくても共感するだろう。興味のある方はぜひ読んでいただきたい。
のほほんと生きる私にとっての列車旅は、駅弁を味わう年に数回の楽しみなのだが、映画『旅の終わりのたからもの』の父親にとっては、凄惨な過去と重なっている。アメリカからポーランドへやってきた父と娘。娘は空港から目的地まで列車を予約していたのだが、父は頑なに列車を拒絶する。その理由は旅の後半に明らかになるが、それまでの父の言動からは想像できない。辛いことを辛いと言えない、悲しいことを悲しいと言えない人がここにもいると教えられた。

© 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

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ストーリー
ニューヨークで生まれ育ったルーシーは、ジャーナリストとして成功しているが、どこか満たされない想いを抱えていた。その心の穴を埋めるため自身のルーツを探そうと、父エデクの故郷ポーランドへと初めて旅立つ。ホロコーストを生き延び、その後決して祖国へ戻ろうとしなかった父も一緒だ。ところが、同行したエデクは娘の計画を妨害して自由気ままに振る舞い、ルーシーは爆発寸前。かつて家族が住んでいた家を訪ねても、父と娘の気持ちはすれ違うばかり。互いを理解できないままアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所を訪れた時、父の口から初めて、そこであった辛く痛ましい家族の記憶が語られる──

© 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

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2026 年 1 月 16 日(金)kino cinema 新宿ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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監督:ユリア・フォン・ハインツ
原作:「Too Many Men」 リリー・ブレット著
出演:レナ・ダナム(「GIRLS/ガールズ」)、スティーヴン・フライ(「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」)
2024/独、仏/英語、ポーランド語/112 分カラー/5.1ch/スコープ
字幕翻訳:渡邉貴子
原題:TREASURE
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
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treasure-movie.jp
X:キノフィルムズ・アートハウス部@kino_arthouse
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