毎週金曜日夜9時からおおくりしている、映画情報番組『とっておきシネマ』の鳥飼美紀です。
今週は直木賞受賞作が原作、波瑠さん主演の『ホテルローヤル』をご紹介しました。
【STORY】
北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル。
そのホテルの一人娘・雅代は美大の受験に失敗し、家業であるホテルを手伝うことになる。
出入り業者の営業、宮川への恋心を秘めつつ黙々と仕事をこなす日々。
半ば諦めるように継いだそのホテルには、「非日常」を求めて様々な人が訪れるのだった。
そんな中、ある部屋で事件が起こり、ホテルはマスコミの標的に。
さらに父親大吉が病に倒れ、雅代はホテルと「自分の人生」に初めて向き合っていく……。。
【REVIEW】
原作は、北海道釧路市出身の作家、桜木紫乃の『ホテルローヤル』。
第149回直木賞を受賞し、累計100万部を突破するベストセラーだ。
小説は、桜木さんの実家だったラブホテルを舞台にした7つの連作小説である。
桜木さん自身が実家のホテルで働いていた体験がベースになっていて、映画では現代と過去を交錯させて一つの物語となっている。
主人公雅代(桜木さん自身?)を演じた波瑠さんのことを、桜木さんはこう語っている。
「誰にも心を見せず開かず、無表情を貫き、黙々とラブホテルの掃除をする彼女の姿は、苦しくなるほどリアル」
確かに、波瑠さんの演技は感情を表に出さず淡々としているし、主役なのに台詞も少ない。
でも桜木さんの言うように、それがとてもリアルに思える。
ラスト近くに、このおとなしい雅代さんがとても大胆な言動をする、しかも彼女らしく淡々と……。
そのシーンには少し驚きを感じるが、すぐにときめに変ってドキドキし、やがて落胆と安堵が入り混じる。
監督は、武正晴。
代表作の2014年『百円の恋』は、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など数々の映画賞を総なめにして話題となった。
武監督は、原作を読んで「明らかにひとつの部屋が軸になっている」とわかり、「このホテル、そして部屋をもうひとつの主人公」にしようと思ったとか。
ホテルで働く雅代たちの集うボイラー室や事務所でのあれこれ、そしてホテルの中のある一つの部屋を訪れた何組かのカップルの事情が描かれていく。
その何組かのカップルの一組が起こした騒動がきっかけで、ホテルローヤルはピンチを迎えラストに向かうのだ。
ホテルの従業員、客、それぞれの人間ドラマが「あ、こんなことありそう」という温度で描かれている。
それは桜木さんが実際に経験したことがベースになっているから、嘘っぽくないのだろう。
ラブホテルが舞台という濃い設定の作品ではあるが、後味さわやかな人間ドラマである。
この『ホテルローヤル』の公開を記念して、桜木紫乃さんによる書き下ろしエッセイ「もうひとつのホテルローヤル」が、映画の公式サイトで読むことができる。
原作の小説、そして映画にも登場していないばかりか、両親にも話したことがなかったという新たなエピソードが披露されている。
興味のある方は、是非映画の公式サイトへ(12月31日までの期間限定)。
原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』集英社文庫
監督:武正晴
出演:波瑠 松山ケンイチ 安田顕 余貴美子 原扶貴子 夏川結衣 ほか
2020年 日本 104分 配給:ファントム・フィルム
https://www.phantom-film.com/hotelroyal/
本日11月13日(金)から、TOHOシネマズ梅田、OSシネマズミント神戸 TOHOシネマズ西宮OS などで公開。
番組では、メッセージをお待ちしています。
メール:honey@fm822.com
「とっておきシネマ」係とお書き添えください。
番組の感想やあなたの好きな映画について、好きな映画主題歌のリクエストなど、映画に関することなら何でもOKです。
映画は色々なことを私たちに教えてくれます。
1本の映画との出会いで、人生が変わることだってあるかもしれません。
映画が、あなたの人生の良きスパイスになるといいですね。