毎週金曜日、夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
はや2月も残りわずか、春の足音がかすかに聞こえてくる季節になりつつありますね。
さて今週ご紹介したとっておきのシネマは、イギリス映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』という作品です。
タイトルからハートウォーミングな匂いがプンプンしてきますね。
ゴヤの名画で世界を救おうとした高齢男性が、人々に優しく寄り添う姿を描く爽やかな感動作です。
【STORY】
世界中から年間600万人以上が訪れ、2300点以上の貴重なコレクションを揃えるロンドン・ナショナル・ギャラリー。
1961年、その“世界屈指の美の殿堂”から、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」という絵画が盗まれた。
この前代未聞の大事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントンという人物。
孤独な高齢者がTVに社会との繋がりを求めていた時代に、彼らの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。
しかし、事件にはもう一つの隠された真相があった・・・。
当時、イギリス中の人々を感動の渦に巻き込んだケンプトン・バントンの“優しい嘘”とは−!?
【REVIEW】
実話に基づく物語の舞台はイギリス。
とてもチャーミングなおじいちゃんの巻き起こした、とんでもない名画盗難事件。
1961年、イギリスが誇るロンドン・ナショナル・ギャラリーが、ゴヤ作「ウエリントン侯爵」という絵画を購入。
ウエリントン侯爵というのは、ワーテルローの戦いでナポレオンを破ったイギリスの国民的英雄である。
その名画について当時の新聞やテレビは連日大々的に報道し、ギャラリーに飾られたものの、わずか19日後にあっさり盗まれてしまったのだ。
盗んだのは、富むものから奪って貧しい人々を救う……ロビン・フッドのようなタクシー運転手、ケンプトン・バントンだった。
TVが唯一の娯楽だった当時。
イギリスの公共放送BBCの受信料の不払いで刑務所へ13日間服役する~そんなケンプトンのエピソードからこの物語は始まる。
ケンプトンは正義の味方なのだ。おかしいと思ったことは黙っていられない。
上司に対して人種差別を堂々と指摘しクビになる……なんて日常茶飯事。
そんな不器用な生き方の夫を持つ妻のドロシーは、掃除人として働いて家計を支えるバントン家の大黒柱。
そして、少しチャラい兄と、真面目で素直な弟という息子2人。
実は長女が事故で亡くなっていて、家族としてはいまだにその事実に向き合えない部分があり、いわばタブーとなっている。
それゆえにケンプトンには、“弱者に寄り添う”という思いが強いのかもしれない。
イギリス流のクスッと笑えるユーモアとともに、今を生きる私たちに自ら声を上げることの大切さを教えてくれる。
そして、互いに手を取り合い生きていくことの大切さも感じさせてくれる作品である。
チャーミングな主人公ケンプトンに名優ジム・ブロードベント。
そして長年連れ添った妻ドロシーを演じるのはヘレン・ミレン。
イギリスを代表するオスカー俳優のふたりが演じる夫婦のユーモアあふれる会話も見どころのひとつだが、最大の見どころはラスト、ケンプトンの裁判シーン!
ユーモアと人情と、そして弁護士の驚きの作戦にも観客はついニンマリすることだろう。
ドロシーとの結婚について聞かれ、ケンプトンは「やむなく……」と答えるが、そのあとに続く最高の答弁をお聞き逃しなく!
そんなイギリス人のユーモアと包容力、そして良識というものをたっぷり堪能できる「とっておきの実話物語」である。
監督:ロジャー・ミッシェル
出演:ジム・ブロードベント ヘレン・ミレン フィオン・ホワイトヘッド アンナ・マックスウェル・マーティン マシュー・グード
2020年/イギリス/95分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
2月25日(金)~全国公開
関西では、TOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズ西宮OSなどで公開。
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