毎週金曜日、夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、中国映画『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』をご紹介しました。
北京・冬季オリンピック・パラリンピックで開閉会式の総監督を務めた、中国映画界の巨匠チャン・イーモウ監督による映画愛にあふれた作品です。
【STORY】
1969年、文化大革命まっただなかの中国。
造反派に歯向い強制労働所送りになった男は、妻と離婚し最愛の娘とも疎遠になってしまう。
数年後、22号というニュース映画に娘が1秒間だけ映っているという話を聞いた男は、一目見たいがために危険を冒して強制労働所を脱出。
男は逃亡者となり、映画が上映される予定の村を目指して砂漠の中を進んでいく。
しかし、男は途中で、大事なフィルムを盗み逃げ出す孤児のリウの姿を目撃する。
映画が上映される村までたどり着いた男は、すぐにリウを見つけ出し締め上げ、盗んだフィルムを村の映写技師ファンに返す。
そんな時、村では大騒動が勃発していた。
運搬係の不手際で膨大な量のフィルムがむき出しで地面にばらまかれ、ドロドロに汚れ、上映不可能な状態に…。
しかも、その中には男の娘が1秒だけ映っているという22号のニュース映画の缶があった。
果たして男は愛しい娘の姿を見られるだろうか? そして、追われ続ける彼の運命は……。
【REVIEW】
チャン・イーモウ監督は、中国で最も影響力のある監督の一人である。
初監督作品『紅いコーリャン』(1987年)は、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。
『菊豆』(90年)、『紅夢』(91年)、『秋菊の物語』(92年)、『活きる』(94年)なども、国際映画祭での受賞やアカデミー賞®外国語映画賞ノミネートなど、世界中で高い評価を得ている。
私もこれらの作品を観て、中国映画と“中国の百恵ちゃん”といわれた女優コン・リーのファンになったのだった。
また98年の『初恋のきた道』は、チャン・ツィイーの映画デビュー作品で、ベルリン国際映画祭の審査員賞を受賞している。
2000年代に入ってからも『HERO』『LOVERS』『王妃の紋章』など、ヒット作や受賞作は枚挙にいとまがない。
今回の『ワン・セカンド』は、かつて観たイーモウ監督作品の印象とはまた違った、全編にわたって監督の“映画への愛”があふれるノスタルジックな作品だ。
監督は「青春時代の思い出をつなぎ合わせた、自身のフィルモグラフィーの中でも最もパーソナルかつ重要な作品であり、映画人として、“映画へのラブレター”のような作品だ」と語っている。
キーワードは、文化大革命・砂漠・映画・フィルムだろうか。
「文化大革命」は1966年からの10年間、中国に吹き荒れた政治運動の嵐だ。
「悪質分子」として強制労働所に収容されていた主人公は、わずか1秒間だけニュース映画に映る娘の姿を見るために逃亡者となる。
そして、果てしない「砂漠」の中をボロボロになって歩いていく……わずか1秒だけのために。
中国西北部の農場が舞台となっているが、すべてが飲み込まれるようなダイナミックな砂漠(というか大砂丘)の映像美に圧倒される。
一方、「映画」という存在が、娯楽の少ないあの時代にいかに人々を熱狂させたのか……というノスタルジー。
それを描いたシーンは、チャン・イーモウ監督の映画への愛があふれていて、こちらも熱く興奮してくる。
さらに、泥まみれになり傷ついた「フィルム」の驚きの修復方法、映写室がフィルムだらけになる後半のシーンは見応えたっぷりだ。
タイトルにある“ワン・セカンド”とは1秒という意味で、映画は1秒あたり24コマで構成されているという。
主人公にとって大切な1秒のストーリーと、当時の人々にとって心を潤す映画へのとてつもない執着の様子が、いつまでも脳裏に残る作品だ。
監督:チャン・イーモウ
出演:チャン・イー リウ・ハオツン ファン・ウェイ
2020年 /中国 / 103分 / 配給:ツイン
https://onesecond-movie.com/
5月20日(金)からTOHOシネマズ シャンテ 他全国公開
関西では、京都シネマ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば など。