2020年9月から毎週金曜日にお送りしてきた最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」は、今週がラジオ放送の最終回でした。
この番組としては3年5カ月、ハニーFMのラジオパーソナリティ鳥飼美紀としては2003年開局時からの21年間、本当に楽しく放送させていただきました。
聴いて下さったリスナーの皆さん、メッセージを下さった方々、心から感謝しています。
ありがとうございました!
4月からはハニーFMの配信番組として再スタートしますので、これまでどおり聴いていただけたら嬉しいです。
ラジオ最終回にご紹介したのは、フランス映画『パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ』です。
どん底から世界の頂点を目指した若きパティシエの奇跡の実話!
どうぞ、スクリーンから元気と勇気を貰ってください。
~鳥飼美紀のシネマエッセイ~
若い頃、甘いものが苦手だと言っても誰も信じてくれなかった。
女性はスイーツに絶対目がないという思い込みがあるようだが、少なくともデザートブッフェなどという言葉は私の辞書にはない。
スイーツは1つで十分である。
かつて、お気に入りのフレンチのお店に行った時、デザートが3皿出てきて気を失いそうになったことがある。
一緒に食事をした友人は目を輝かせて自分の分を食べきり、さらに私の残した何品かを平らげた。
正直に言うと、そんな友人が羨ましくもある。
色とりどりの美しいスイーツを、キャッキャと喜んで食べてみたいと思わなくもないのだ。
映画『パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ』には、フォンダンショコラ、フィンガーフランボワーズ、タルトタタン、キャラメルのフィナンシェ、ショコラ・スフェール、サントノレなどのスイーツが登場する。
私にはどれがどんな形なのか、どんな味なのかさっぱりわからない。
そして、タイトルになっている“パリ・ブレスト”は、主にリング状のパイやシューにアーモンド風味のバタークリームを挟んだものを指すらしい。
大きなさくらんぼの形をした、艶やかなチョコレートのコーティングが芸術的な“フォレ・ノワール”もこってりと甘そう。
スクリーンの中に出てくるそれらのスイーツは目にも美味しそうで、自分がスイーツ好きになったように錯覚してしまう。
物語は実話で、フランスのパティシエであり実業家のヤジッド・イシュムラエンの自伝書『星の少年の夢:菓子作りが彼を救った理由』を元に映画化されたサクセス・ストーリーだ。
主人公ヤジッドは、親との縁が薄く、幼い頃から里親の元で育った。
里親の息子からお菓子作りを習い、いつしか最高のパティシエになることがヤジッドの夢になる。
彼は積極的で、自分を売り込むことに躊躇しない。さらに、へこたれることを知らない。
何度も挫折しそうになるが、けっして夢を諦めない強さはいったいどこからくるのだろう。
「成功したい」という強烈な情熱に加え、失うものが無い境遇だから……ということなのだろうか。
自分に与えられた境遇を嘆く暇があったら、夢に向かってがむしゃらに努力する。
そんなヤジッドの作るスイーツは、甘いものが苦手な私にも魅力的に映る。
夢を叶えるパワーにあやかれるかもしれない……なんて!
育児放棄の母親の下、過酷な環境で過ごしている少年ヤジッドにとって唯一の楽しみは、里親の家で団欒しながら食べる手作りのスイーツ。
いつしか自らが最高のパティシエになることを夢みるようになっていた。
やがて、児童養護施設で暮らしはじめたヤジッドは、敷居の高いパリの高級レストランに、機転を効かせた作戦で、見習いとして雇ってもらうチャンスを10代で掴み取る。
毎日180キロ離れた田舎町エペルネからパリへ長距離通勤し、時に野宿をしながらも必死に学び続け、活躍の場を広げていく。
偉大なパティシエたちに師事し、厳しくも愛のある先輩や心を許せる親友に囲まれ、夢に向かって充実した日々を過ごすヤジッド。
ところがそんな彼に嫉妬する同僚の策略で、突然仕事を失うことに。
しかし、失意のどん底から持ち前の情熱でパティスリー世界選手権への切符をようやく手に入れる。
監 督:セバスチャン・テュラール
出 演:リアド・ベライシュ ルブナ・アビダル クリスティーヌ・シティ パトリック・ダスマサオ
2023年/フランス/フランス語/110分/
配給:ハーク https://hark3.com/parisbrest/#
3月29日(金)~全国順次公開