今週のとっておきの1本は、12月6日公開の映画『クラブゼロ』。学校に新しくやってきた栄養学の教師が指導する”意識的な食事”とは? 世界を不安にさせるイニシエーション・スリラーです。ファンタジーのような明るい色調の画面でありながら、得体のしれない恐怖が垣間見える個性的な作品です。
~シネマエッセイ~
私は5~6年程前から驚くほど体重が増加してしまった。加齢による女性ホルモンの関係もあるだろうけれど、運動嫌いなのに食欲は旺盛となると仕方のないことかもしれない。一念発起して2年前から女性専用フィットネスに通っているが、そう簡単に体重は落ちてはくれない。とはいえ、増えてもいないので一定の効果はあるのかもしれない。さらに今年の初夏から食生活も少し意識することにした。まず10時と3時のオヤツをやめる。食事時のご飯(白米)は茶碗に半分、もしくは食べない。腹8分目を心がけた。すると、真夏までの3カ月は何の変化もなく過ぎたが、初秋あたりから何だか身体が軽くなった気がしてきた。体重計に乗ってみると、何と2キロも減っている! 食べなければある程度体重は減るのだ。身体は軽くなり、フットワークが良くなる。何より、体重が減るということ自体が5~6年ぶりなのだから、めちゃくちゃ嬉しい。心がルンルンしてくる。そうなれば腹8分目の食事でも楽しく過ごせる。これまで何も考えず〈食べたいものを食べたいだけ食べていた〉ことを大いに反省し、〈意識的な食事〉は大切だと思うようになった。しかし、『クラブゼロ』という映画に出てくる〈意識的な食事〉は、私のそれとはちょっと違う。
クラブゼロという言葉は、映画の中で「何も食べない人の集団」の名称として使われている。ある名門校に新しくやってきた栄養学の教師が、履修する生徒たちに「何も食べなくても生きられる」と説く。すると、まるで宗教のように生徒たちは〈食べない〉ことにのめり込んでいくのだ。彼らの履修目的は、私のようにただ体重を減らしたいという単純なものではなく、健康的な心身、環境保護、自制心を鍛える、持続可能な生活、奨学金を得るため、などしっかりしたものであった。しかし彼らの心身はしだいに変化していき、それぞれの家庭はギクシャクしラストにはとんでもないことになる。これは食べることに限らず、ネットや宗教などあらゆることに当てはまるのではないか。「妄信」や「洗脳」の危うさをストレートに描いたちょっと怖い映画なのだ。グリム童話「ハーメルンの笛吹き男」からのインスピレーションだというが、この映画で笛吹役となる“教師”に悪意のないのが、なおさら恐ろしい。
【ストーリー】
名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァクは〈意識的な食事〉という「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」食事法を生徒たちに説く。生徒たちはその教えにのめり込んでいき、親たちが気付き始めた頃には時すでに遅く、「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブに参加することになる。栄養学の教師が導くのは、幸福か、破滅か―
監督:ジェシカ・ハウスナー
出演:ミア・ワシコウスカ クセニア・デヴリン ルーク・バーカー フローレンス・ベイカー サミュエル・D・アンダーソン グウェン・カラント シセ・バベット・クヌッセン
2023年製作/110分/オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール合作/配給:クロックワークス
https://klockworx-v.com/clubzero/
12月6日(金)全国公開
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