今週のとっておきの1本は、第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門金熊賞受賞の『太陽と桃の歌』。演じる俳優はプロではなく、舞台となるスペイン・カタルーニャ地方アルカラスの地元の人たちです。本当の家族に見えるように長い時間を共に過ごしたとかで、とてもリアルな演技。まるでドキュメンタリーを観ているかのようです。
~シネマエッセイ~
結婚するまでは父母と妹との4人暮らしだった。結婚してからは、気が遠くなるほどの長い時間を、夫と2人だけで過ごしてきた。4年前から私の母との同居が始まって3人家族になった。わずか1人増えただけなのに、食べものの好みは違うし、寝る時間もそれぞれバラバラ、意見の衝突は日常茶飯事である。たとえば、洗濯物の干し方ひとつにしても母娘なのに全く違う。母はとにかく太陽の光と風を当てたい。そのためにいつも空模様を気にしていて、ほんの少しでも厚い雲が上空に来るとバタバタとテラスの中に洗濯物を移動させる。しかし、ピンチハンガーに靴下が逆様にぶら下がっていても、バスタオルが皺になっていても気にしない。一方の私は天気によって入れたり出したりするのが面倒なので、晴れでも雨でもテラスの中に干す。けれど、ピンチハンガーに小物を干すときにはシンメトリーに美しく干したいタイプなのだ。それだけの違いのために……いや、それほど違うから毎日ストレスを感じている。
映画『太陽と桃の歌』は、大家族の物語である。桃の農園を営むソレ家は、祖父、父と母、子ども3人、父の妹夫婦に双子、そして父のもう一人の妹とその子どもも頻繁にやって来る。さらに大伯母もいる。数えてみると13人! 私からすれば想像を絶する大家族なのだ。毎日がワチャワチャと過ぎていき、洗濯物の干し方などでいちいちストレスなど感じていられない。大家族の中で、子どもたちは逞しく、良くも悪くも社会性を学びながら大きくなっていくのだ。庭のプールで泳ぎ、桃の収穫を手伝い、農園を荒らす野兎を追いかける……そんな生活にふいに終わりが来ることなど考えたこともなかっただろう。最初と最後に桃の農園が囲むソレ家を俯瞰して見せるシーンが印象的。
スペインのカタルーニャ地方の奥地にある小さな村アルカラスで、3代にわたって桃農園を営む大家族のソレ家。例年通り夏の収穫を迎えようとしていたその時、地主から夏の終わりに土地を明け渡すようにと迫られる。桃の木を伐採して、ソーラーパネルを設置するというのだ。そのことをきっかけに、ずっと仲良く生きてきたはずの大家族に初めての亀裂が生まれる。果たして、美しく豊かな桃の木々の行方は? そして、家族は最大の危機を乗り越え、固い絆を取り戻すことができるのか?
監督:カルラ・シモン
出演:ジュゼップ・アバット ジョルディ・プジョル・ドルセ アンナ・オティン アルベルト・ボスク シェニア・ロゼ カルレス・カボス ベルタ・ピポ
2022 年 /スペイン・イタリア/121/配給:東京テアトル
https://taiyou-momo.com/
12月13日(金)から公開中
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