今週のとっておきの1本は、病に侵され安楽死を望む女性と、彼女に寄り添う親友のかけがえのない数日間の物語『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』。スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が人生の終わりと生きる喜びを描く、世界が沸いた最高傑作。第81回ベネチア国際映画祭で、最高賞である金獅子賞の栄冠に輝いた作品です。「死」を扱った映画ですが、どのように死を迎えるか……それが、どのように生きたかの「証(あかし)」になるような気がしてなりません。
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©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
©El Deseo. Photo by Iglesias Más.
~シネマエッセイ~
昨年のいつだったか……40年来の友人とランチに行った時のこと。私はちょっとした手土産に、お気に入りのバジル入りの食パンを持参した。差し出す私に友人は少し戸惑った表情を見せた。「実は、パン断ちをしている」と言う。彼女の従姉がある病に侵され、手術が無事終わるまでの「パン断ち」だと……。断つものは何だっていい。それを我慢するたびに「手術が成功しますように」と、従姉に思いを馳せるのだ。甲斐あって従姉の手術は成功した。友人は看護師なので、きっと医療的な相談にも乗っていただろうし、術後の通院にも付き添い、さらに機会を見つけてはある有名な神社に二人で参詣もしているとのこと。「寄り添う」とはそういうことだろう。人が苦しい時、不安な時、ただ傍にいてくれる誰かがいるといないとでは大きく違う。願掛け、参詣、そして本人の頑張りがあって、従姉は順調に回復し、今ではゴルフも楽しめるようになっているという。願掛け万歳! 私は友人に、「私の時も頼むよ~」と軽く冗談交じりに言いながら、果たして自分が病気になったら誰がそんな風に寄り添ってくれるのだろうと、ふと思った。
映画『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は、生きること、死ぬこと、そして寄り添うことがテーマだ。主人公は親友同士の二人の女性。末期の癌に侵され安楽死を望む一人に、全身全霊でもう一人が寄り添う。そんな二人が過ごす数日間が描かれる。「死」は絶対的な終焉ではなく、人は完全に死ぬことはないとアルモドバル監督は考えている。生まれ変わりの可能性、あるいは暗闇を超越した何かが“その先”にある可能性を本作には忍ばせている……と。そう思うと、将来必ず訪れる「死」を無闇に恐れなくてもいいような気がする。そして、その時に寄り添ってくれる人がいれば、さらに心安らかに旅立てるのだ。
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【ストーリー】
かつて戦場ジャーナリストだったマーサと小説家のイングリッドは、若い頃同じ雑誌社で一緒に働いていた親友同士。何年も音信不通だったマーサが末期ガンと知ったイングリッドは、彼女と再会し、会っていない時間を埋めるように病室で語らう日々を過ごしていた。治療を拒み自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、“その日”が来る時に隣の部屋にいてほしいとイングリッドに頼む。悩んだ末に彼女の最期に寄り添うことを決めたイングリッドは、マーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始める。そして、マーサは「ドアを開けて寝るけれど もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいない」と告げ、最期の時を迎える彼女との短い数日間が始まるのだった。
監督:ペドロ・アルモドバル(『オール・アバウト・マイ・マザー』、『トーク・トゥ・ハー』)
原作:シーグリッド・ヌーネス「What Are You Going Through」(早川書房 1月23日発売)
出演:ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロ、アレッサンドロ・ニボラ
2024年/スペイン/107分/PG12/配給:ワーナー・ブラザース映画
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2025年1月31日(金)~ 公開中