今週のとっておきの1本は、先月開催されたカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した『急に具合が悪くなる』です。マリー=ルーと真理……同じ名前を持つ2人の女性が偶然に出会い、友情を超える絆を結ぶ物語です。主人公2人を演じたヴィルジニー・エフィラさんと岡本多緒さんがカンヌの女優賞を共同受賞しました。3時間を超える長編ですが、監督の思いを伝えるにはこれだけの時間が必要だったのだろうと納得するほど丁寧に描かれた作品です。

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners
シネマエッセイ
2年前の春のこと。私の朗読の師が出演する朗読会に出かけた。開演時間直前だったので前の席は埋まっていて、最後列に空いていた1席を見つけて座った。隣の席に座っていた女性も1人で来ていたようで、どちらからともなく会話を交わしているうちに偶然にも私の師のカルチャー教室の生徒さんだということがわかり、さらに話が弾んだ。休憩時間に私はあつかましくも自分が投稿しているエッセイ同人誌と、HONEY FMのフリーペーパーを彼女に渡した。なんとなく快く受け取ってくれそうな気がしたから……。彼女は受け取ってくれただけでなくエッセイにもラジオにも興味を示してくれたので、私のなんとなくの勘は正解だったようだ。その後、私の朗読会に遠方からわざわざ足を運んでくれたり、他の朗読会などでも何度か再会を繰り返したが、いつも挨拶を交わす程度でゆっくり会話するチャンスはなかった。時が過ぎ、この春にある朗読イベントでまた再会し、会場からJR大阪駅まで一緒に帰ることになった。わずか30分ほどの時間だったが、お互いのことをとりとめなく語り合えたのはとても嬉しかった。朗読を始めたきっかけから自身のことや家族のこと、朗読教室でのエピソードなど率直に彼女は話してくれる。これは聞き流してはいけないと思うほどありのままに……。偶然の出会いから始まったけれど、長いお付き合いになりそうな嬉しい予感を持って、その日は別れた。なんとなく気が合いそう、なんとなく私を受け入れてくれそう……そんな偶然の出会いはこれまでにも何度かあった。そんな出会いをした人とは、つかず離れずの心地よいお付き合いをしていることが多い。
映画『急に具合が悪くなる』の2人の女性の出会いも、些細な偶然である。演出家の真理は、自分の演出する舞台のチラシをマリー=ルーに渡す。配るためのきれいなチラシではなく、自分の手帳に入れていたもの(だったと思う)を。なんとなくの勘がそうさせたのか、その演劇を観にきたマリー=ルーとはその後に魂の通い合う友情を育むことになる。出会いとは、きっかけは偶然であっても後から考えると必然であったのかと思えるようであれば、人生の幸せのひとかけらになるはず。

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ストーリー
パリ郊外の介護施設「⾃由の庭」の施設長であるマリー=ルー・フォンテーヌは⼊居者を⼈間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、マリー=ルーは森崎真理という日本人の演出家に出会う。がん闘病中の真理が演出するのは、自閉スペクトラム症の孫・智樹と行動を共にする俳優・清宮吾朗の一人芝居。真理の描く演劇に勇気をもらったマリー=ルー。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、二人の交流が始まる。しかし、あるとき真理は「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、二人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる

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監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
出演:ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代
2026年/フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作/196分/配給:ビターズ・エンド
https://www.bitters.co.jp/soudain/
6月19日(金)全国公開
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