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【とっておきシネマ】日本映画『椿の庭』

毎週金曜日午後9時からの「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
三田の桜、そろそろ見納めですね。
今週ご紹介した最新シネマは、映像美が堪能できる『椿の庭』という日本映画です。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

【STORY】
葉山の海を見下ろす坂の上の一軒家に住む、絹子と孫の渚。
春のある日、絹子の夫の四十九日法要が行われた。
梅雨の頃、絹子は相続税の問題で家を手放すことを税理士から勧められる。
絹子の悲痛な表情に胸を痛める渚。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

お盆、夫の友人が訪ねてくる。
心弾む様子で思い出話に花を咲かせる絹子。
渚は、祖母が久しぶりに見せた笑顔に安堵するが、その後絹子は過労で倒れてしまう。
そして季節は秋から冬へ向かい……絹子にも、渚にも、人生の新しい決断の時が迫っていた。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

【REVIEW】
葉山の海が見渡せる高台の一軒家。
波の音が聞こえ、庭には藤棚があり、ツツジが咲き、苔の付いた甕には金魚が泳ぐ。
いつも着物姿の老婦人絹子さんはどうやらお茶の先生のようだ。
夫を最近亡くして、相続税が大変で、この家を手放さなければならない。
もったいないな~、こんなにいい家なのに……。。
赤の他人でさえそう思うのだから、ここで何十年も暮らした絹子さんの苦悩はどれほどのものだろう。
絹子さんは、四季折々の庭を手入れする。水を撒き、草をむしり、落ち葉を丹念に掃く。
海の色だって、季節によって変わる。
庭の木々や花も、春夏秋冬、色々な顔を見せる。
嵐の去った後の庭にツツジの花が散り落ちている、それさえ美しい。
ほの暗い家の中と庭先の陽の光……谷崎の陰翳礼賛ではないが、光と影のコントラストも見事だ。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

そんな季節のうつろいを、写真家としての目線とセンスと技術で素晴らしい映像にした上田義彦監督。
自身で脚本を書き、撮影・編集したこの作品が映画監督デビュー作となる。
きっかけは、15年前の春さき。
監督が家の近所を歩いていて、ある古い家が突然姿を消してしまったことに気がつく。
こんもりと繁った木々に隠れて静かに建つ、小じんまりとした、好感のもてる家だったそうだ。
更地になったその土地を眺めながら、ここに暮らしていたであろう人のことを想って不思議な喪失感を憶えたとか。
話したことも、姿を見たことさえただの一度もなかった、その家に暮らしていた人のこと……。
自宅に帰り着き、自然にペンを取り思いのまま文章を書き始めたその日が、この映画の始まりだという。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

主演の富司純子さんを見ていると、「気品」という言葉が自然に浮かぶ。
歳を重ねて自然に刻まれた皺さえも美しく、きちんと生きて人生を慈しんできたであろう女性の気品。
終盤、絹子さんがソファに座って、お気に入りのレコードを聴きながらまどろむシーンがある。
その存在感あるソファにも、絹子さんと共に過ごした歳月と気品が漂っているような気がした。
やがて曲が終わり、レコード針の空回りする音だけが聴こえてくる……まるで心臓の鼓動のように……。
ちょっと心がざわつくそのシーンが、とても印象的である。

監督・脚本・撮影:上田義彦
出演:富司純子 シム・ウンギョン 鈴木京香
2020年 日本 128分 配給:ビターズ・エンド
4月23日(金)~テアトル梅田 4月30日(金)~シネ・リーブル神戸で公開
http://www.bitters.co.jp/tsubaki/

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