金曜夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週のとっておきの1本は、フランス映画『1640日の家族』。
里親と“息子”の幸せな日々に、突然訪れた“家族”のタイムリミット。
彼らが選んだ未来とは……フランスの里親制度から“家族のかたち”を描く感動作です。
【STORY】
アンナと夫のドリスが里子のシモンを受け入れて、4年半が経った。
長男のアドリと次男のジュールは、18ヶ月でやってきたシモンと兄弟のように成長した。
シモンを迎え入れるために個室を準備し、日曜日の朝はミサに連れて行き、ケガや病気のないようにと心配りして、我が子以上に大切に“末っ子”を育ててきたアンナ。
にぎやかで楽しい日々が続くと思っていた家族に、ある日、激震が走る。
月に1度の面会交流を続けてきたシモンの実父エディから、息子との暮らしを再開したいとの申し出があったのだ。
エディは、生まれて間もないシモンを遺して妻が亡くなるという悲劇から立ち直れず、福祉に子どもを託したのだった。
早速、児童社会援助局はトライアルを開始し、第1段階は週末をシモンがエディの家で過ごすことなる。
アンナの心配をよそに、別々に暮らしていた父と息子は家族を再起動し、ぎこちなく、それでもゆっくりと距離を縮めていくが……。
【REVIEW】
脚本も手掛けたファビアン・ゴルジュアール監督の実体験がベースとなっている。
監督が子どもの頃、ゴルジュアール家に迎え入れた里子は、まさに本作の設定と同じく生後18か月でやって来て6歳まで一緒に暮らした。
この里子との出会いと別れは家族全員に大きな影響を与えたという。
初めて里親となった母親が、ソーシャルワーカーから受けた唯一のアドバイスは、「この子を愛しなさい、でも愛し過ぎないように」という言葉だったとか。
彼の家で里子を受け入れたのは、それが最初で最後となったのは、里子との別れや、その後の喪失感の辛さからなのかもしれない。
ゴルジュアール監督は、映画監督になったらその経験を映画にすると決めていたという。
フランス子ども家庭福祉研究者の安發明子さんによると、フランスの里親は“職業”として確立されているそうだ。
子どもの養育の諸費用とは別に給料が支払われ、有給休暇も定年もあるという。
採用の際は、教育力が必要なので映画のように実子がいる場合がほとんどで、里子と実子の関係性やプライベートな空間での仕事……という難しいものがある。
親戚の子どもや友人の子どもを預かるのとは違う、非常にシビアな裁量を求められるものらしい。
この映画の中の里親アンナは「職業としての里親の心構え」と、仮であっても「母親としての愛情」の2つの感情を持っている。
家族が仕事や学校で留守の間に2人だけの時間を過ごすアンナと幼いシモンの関係は、とても親密になっていく。
これは素晴らしいことでありながら、逆に厄介なことでもある。
つまり、離れられないほどの愛情と絆が、2人の間に生まれるのだ。
どんなに愛情をもって育てたとしても、いずれは別れが来るであろうことを前提とした仮の親子関係、里親と里子。
アンナの一家は、別れの涙を超えた先にあるシモンの未来を、心から願い、祝福できるのか……。
シモン役のガブリエル・パヴィの愛くるしい表情の中に、時々、里親家族と実父の狭間での葛藤が表れるのが切ない。
「泣ける映画」という言葉は好きではないが、思わず涙してしまうシーンが忘れられない。
監督・脚本:ファビアン・ゴルジュアール
出演::メラニー・ティエリー、リエ・サレム、フェリックス・モアティ、ガブリエル・パヴィ
2021年/フランス/仏語/102分/1.85ビスタ/5.1ch/原題:La vraie famille/英題:The Family/日本語字幕:横井和子/配給:ロングライド
公式サイト https://longride.jp/family/
7月29日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
関西では、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ西宮OS シネ・リーブル神戸など
秋には宝塚のシネ・ピピアでも上映予定