金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した映画は、今から数十年先の未来を背景にしたAIロボットをめぐるちょっとせつない家族の物語です。
原作はアレクサンダー・ワインスタインの「Saying Goodbye to Yang」。
ペットでも、車でも、お掃除ロボットでも、何でも擬人化してしまう私にはとてもせつないお話でした。
皆さんは、どんなことを感じるでしょうか?
【STORY】
“テクノ”と呼ばれる人型ロボットが、一般家庭にまで普及した未来世界。
茶葉の販売店を営むジェイクは、妻のカイラ、中国系の幼い養女ミカ、そしてロボットのヤンと暮らす。
慎ましくも幸せな日々を送っていた一家だが、ロボットのヤンが突然の故障で動かなくなる。
修理の手段を模索するジェイクは、ヤンの体内に一日ごとに数秒間の動画を撮影できる特殊なパーツが組み込まれていることを発見する。
そのメモリバンクに保存された映像には、ジェイクの家族に向けられたヤンの温かなまなざし、そしてヤンがめぐり合った若い女性の姿が記録されていた……。
【REVIEW】
監督・脚本は、小津安二郎監督を信奉しているという韓国系アメリカ人のコゴナダ監督。
主人公ジェイク役はアイルランド生まれのコリン・ファレル、妻のカイラにはジャマイカ人の両親を持つジョディ・ターナー=スミス。
そして中国系という設定の養女ミカは、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤというインドネシア系アメリカ人が演じている。
この家族構成とキャスティングに、近未来では当たり前となっているであろう多様性を感じる。
その多様性にAIロボットのヤン(韓国系のジャスティン・H・ミン)が加わると、近未来・SFという要素がぐっと濃くなる。
まさにに数十年先には、人種・性別・血縁などの垣根を超えた家族構成の家庭に人型のロボットもいる……それが珍しくない世界になっているのだろう。
この未来の家族の物語は、ロボットのヤンが故障してしまうところから始まる。
ジェイクは、全く動かなくなったヤンを何とか修理して元通りの生活に戻りたいと思い、奔走する。
そして、調べていくうちにヤンにはロボット以上の感情があったのではないかと気づくのだ。
ヤンの体内のメモリに遺された動画には何が映っていて、何を物語っているのか……はたして彼には“愛”という感情があったのか。
人間と何ら変わりない外見を持つヤンは、高度にプログラミングされたAIによって知的な会話もこなす。
彼は、ただの家事ロボットとは全く異なる存在感を、家族それぞれに残してきたのだ。
特に幼いミカにとっては、賢く優しい兄のような存在だったのである。
そんなヤンとかけがえのない絆で結ばれた家族を描いたこの作品は、SFでありながら温かなヒューマン・ドラマでもある。
音楽担当は、日本とLAを拠点に活躍するアスカ・マツミヤ。
そして、オリジナル・テーマ曲はコゴナダ監督が敬愛する坂本龍一が作曲している。
さらに、フィーチャリング・ソングとして流れる「グライド」は、2001年の日本映画『リリィ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)で使われたコゴナダ監督お気に入りの楽曲。
この「グライド」は、ニューヨークを拠点に活動する日系アメリカ人のシンガー・ソングライター・ミツキによる新バージョンで使われている。
アメリカ映画とはいえ、音楽スタッフとしてこれだけの日本人が関わっているこの作品に、とても親近感を覚える。
監督・脚本・編集:コゴナダ
原作:アレクサンダー・ワインスタイン「Saying Goodbye to Yang」(短編小説集「Children of the New World」所収)
撮影監督:ベンジャミン・ローブ
美術デザイン:アレクサンドラ・シャラー
衣装デザイン:アージュン・バーシン
音楽:Aska Matsumiya
オリジナル・テーマ:坂本龍一 フィーチャリング・ソング:「グライド」Performed by Mitski, Written by 小林武史
出演:コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジャスティン・H・ミン、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ、ヘイリー・ルー・リチャードソン
2021 年/アメリカ/96 分/配給:キノフィルムズ/提供:木下グループ
https://www.after-yang.jp/
10月21日(金)~大阪ステーションシティシネマ kino cinema 神戸国際 TOHOシネマズ西宮OSなどで公開