金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、フランスのアカデミー賞と⾔われるセザール賞において、作品賞を含む最多7冠を受賞した『幻滅』という作品をご紹介しました。
原作は、19世紀フランスを代表する文豪オノレ・ド・バルザックの『幻滅―メディア戦記』。
200 年も前の物語とは思えないほど、現代と非常によく似たメディアの状況を鋭く描いた社会派⼈間ドラマです。
【STORY】
舞台は 19 世紀前半。恐怖政治の時代が終わり、フランスは宮廷貴族が復活し、⾃由と享楽的な⽣活を謳歌していた。
⽂学を愛し、詩⼈として成功を夢⾒る⽥舎の純朴な⻘年リュシアンは、彼を熱烈に愛する有力貴族の⼈妻ルイーズと駆け落ち同然に憧れのパリにやってくる。
だが、世間知らずで無作法なリュシアンは、社交界で笑い者にされる。
⽣活のためになんとか新聞記者の仕事に就くが、恥も外聞もなく⾦のために魂を売る同僚たちに感化され、当初の⽬的を忘れ、欲と虚飾と快楽にまみれた世界に⾝を投じていく。
挙句の果ては、当時⼆分されていた王制派と⾃由派の対⽴に巻き込まれ身を滅ぼすことになる。
【REVIEW】
フランス革命、ロベスピエールらによる恐怖政治、そしてナポレオンの台頭・失脚の時代を経て、国王(ルイ18世)を頂点とする旧体制に戻った 1820年前後のフランスが舞台。
人妻ルイーズとパリに出たリュシアンは、⾃分が周囲から完全に浮いた“おのぼりさん”でしかないことを悟る。
パリの社交界やマスコミ世界の人々は、リュシアンという異分⼦に容赦なく冷酷な視線を浴びせる。
しかし、リュシアンはそれに潰されそうになりながらも、⾃分も彼らの⼀員として認められたいと欲するのだ。
その思いを強烈に表しているのが、リュシアンがこだわる名字である。
彼が自分の名字として、父方の「シャルドン」を頑なに拒み、母方の「リュバンプレ」を名乗るのは、それが貴族の名字だからだ。
リュシアンは最初から最後までこの名字にこだわるが、周囲もまた徹頭徹尾この名字を受け入れない。
その一歩も引かない両者の対立が、時代の価値観をわかりやすく教えてくれる。
またリュシアンには、自分を見捨てたも同然のルイーズを見返したいという思いもあったに違いない。
ルイーズは、自分が育てようと思っていた若き詩人が、パリでは全く評価されないどころか冷笑される存在だと気づく。
彼女は自分の立場を守るためにリュシアンと距離を置くが、その行動には彼女自身が後ろめたさを感じていたはずだ。
一度は売れっ子のライターとなって、自分を馬鹿にした人間を見返すリュシアン。
しかし、絶句するほどの悪意がリュシアンとその恋人を襲うクライマックスは、身震いするほど恐ろしい。
原作となったバルザックの『幻滅―メディア戦記』は、フランス⼈にはとてもなじみのある物語だという。
映画では、恋愛は描かれているがラブストーリーではなく、活気はあっても品のないメディア、パリの社交界や演劇などの文化がたっぷり描かれ、見応えたっぷりの2時間半である。
監督・脚本:グザヴィエ・ジャノリ
出演:バンジャマン・ヴォワザン セシル・ド・フランス ヴァンサン・ラコスト グザヴィエ・ドラン サロメ・ドゥワルス ほか
2022 年/フランス映画/149 分/配給:ハーク
https://hark3.com/genmetsu/
4月14日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開
関西では シネ・リーブル梅田 アップリンク京都 シネ・リーブル神戸など