今週のとっておきの1本は日本映画『アット・ザ・ベンチ』というオムニバス映画です。あなたは誰かとベンチで語らった記憶がありますか?” この映画は、とあるベンチ” を舞台に、ある日のある人たちのちょっとした思い出の時間を紡いだ作品。こんな何でもない日常を切り取った映画って、ホッとしますね。
~シネマエッセイ~
わが家から数十メートルのところに、小さな川に沿って遊歩道がある。ぐるり歩くと5キロメートル弱の距離らしい。郊外の住宅地だから空が広く、春になると桜が満開、夏には蝉しぐれ、晩秋には紅葉など、四季折々の趣ある散歩道だ。犬との散歩でその川沿いを歩いていると、同じく犬連れの人、ウォーキングをする人、ランニングする中学生たちなどが行き来している。所々に東屋がありベンチも10か所以上あると思うが、その東屋やベンチに人が座っているのを見るのは珍しいし、自分自身もベンチに座ることがほとんどない。お花見時に橋のたもとのベンチでお弁当を広げることはあるけれど、日常の中でゆっくりベンチに座って深呼吸したり景色を眺めたり、ましてや誰かとお喋りしたことがあったのかどうかも思い出せない始末。せっかくのベンチなのに……。
『アット・ザ・ベンチ』の奥山監督の散歩コースにも、川沿いにぽつんと佇む古いベンチがあるらしい。人はチラホラいるのだけれど、そのベンチと関わる人を見たことがないので、実は誰にも見えていないのではないかと思ったこともある……とか。この映画は、そんな川沿いの哀愁感漂うベンチを舞台に、すべての台詞がアドリブかと思うほど自然な会話が紡がれていく5つのストーリーを集めたオムニバス。それぞれ、ほのぼのだったり、辛辣だったり、エキセントリックだったり、ぶっ飛んでいたりと、バラエティ豊かなひとときを楽しめる1時間半なのだ。
映画を見終わったら、なんとなくベンチに座ってみたくなって、小春日和の先日、愛犬と散歩に出かけた時に座ってみた。特別な感慨はないけれど、ちょっとした一服感が心地よかったので、これからも時々座ってみようかな……。
川沿いの芝生の真ん中に一つのベンチが佇んでいる。ある日の夕方、そのベンチには久しぶりに再会する幼馴染の男女が座っている。彼らは小さなベンチで、どこかもどかしいけれど、愛おしくて優しい言葉を交わしていく。この場所には他にも様々な人々がやってくる。別れ話をするカップルとそこに割り込むおじさん、家出をした姉とそんな姉を探しにやってきた妹、ベンチの撤去を計画する役所の職員たち。一つのベンチを舞台に、今日を生きる人々のちょっとした日常を切り取るオムニバス長編作品。
監督:奥山由之
出演:広瀬すず 仲野太賀 岸井ゆきの 岡山天音 荒川良々 今田美桜 森七菜 草彅剛 吉岡里帆 神木隆之介
2024年製作/86分/G/日本/配給:SPOON
https://www.spoon-inc.co.jp/at-the-bench/
11月15日(金)から順次全国公開中
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