今週のとっておきの1本は、幸せを求めて力強く生きる女性たちの物語『エミリア・ペレス』。2024 年のカンヌ国際映画祭では、通常一人に与えられる女優賞が、この作品に出演した4人の女優に贈られたそうです。サスペンス、アクション、ミュージカル、ヒューマンドラマが一体となった破天荒なストーリーは、見応えたっぷりですよ。

© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
~シネマエッセイ~
「人生において、何かを手に入れたければ、何かを手放さなければならない」と、どこかで聞いたような気がする。かつての女性は、仕事で成功したければ、恋愛や結婚、ましてや出産などは諦めなければならなかった。女性として経験できることを諦めて男性と同じようにバリバリ働かなければ、目指す地位は手に入らなかった。しかし、永遠のアイドル松田聖子ちゃんは、ある意味「何も手放さない」ことで当時の女性の憧れとなった。仕事も、恋愛も、結婚も、出産も、すべて握って放さない生き方は逞しかった。現在、彼女もすでに還暦を超えたが、デビューしてから45年の間に数々のヒット曲を飛ばし、女優としても活動、海外にも進出した。そんなトップアイドルでありながら幾度も恋愛し、結婚も出産も経験した。彼女の脳内には「アイドルだから、普通の生活は諦める」なんていう思考は全く浮かばなかったのだろう。愛する人ができたから結婚し、子どもが欲しいから出産し、これまで歩んできたアイドル道もさらに貫き通す。欲しいものは諦めない。そんな彼女の生き方はとても輝いていたし、世の女性たちはそんな聖子ちゃんに勇気づけられたはずだが、もしかしたら他人にはわからない彼女だけの大切な「何か」を手放していたのかもしれないとも思う。
映画『エミリア・ペレス』では、手放さなかったのではなく、手放せなかった男性いや女性が描かれる。麻薬カルテルのボスであるマニタスは、幼い頃から男性としての自分に違和感を覚えていた。彼は、本来の自分と出会うために「女性になる」道を選ぶ。彼には妻と二人の子どもがいたが、夫と父親という自分の存在を手放す決断をする。しかし、いざエミリアという女性になった途端に子ども達が恋しくてたまらなくなるのだ。父親ということを隠して自分の子どもたちと関わり始めるエミリアことマニタス……ちゃんと手放せなかった彼の進む先に待っていたのは、あまりにも衝撃的な結末だった。

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弁護士リタは、メキシコの麻薬カルテルのボス、マニタスから「女性としての新たな人生を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタの完璧な計画により、マニタスは姿を消すことに成功。数年後、イギリスで新たな人生を歩むリタの前に現れたのは、新しい存在として生きるエミリア・ペレスだった…。過去と現在、罪と救済、愛と憎しみが交錯する中、彼女たちの人生が再び動き出す⸺。

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監督・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス
2024 年/フランス/133分/配給:ギャガGAGA
https://gaga.ne.jp/emiliaperez/
3月28日(金)全国順次公開
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