今週は、日本・フランス・マレーシア・ドイツ国際共同製作のもと、全編海外ロケで撮影された『LOST LAND/ロストランド』をご紹介します。子どもの視点から、ロヒンギャ難民たちが辿る過酷な密航の旅路を描いた作品。第82回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門にて日本人監督初の審査員特別賞を受賞しました。主演をつとめたシャフィとソミーラの姉弟をはじめ、総勢200名を超えるロヒンギャたちが出演する長編映画は世界初だそうです。心が痛くなるシーンもありますが、知っておきたい現実の一つではないでしょうか。

©2025 E.x.N K.K.
シネマエッセイ
慌てて乗った快速電車。武庫川沿いに何キロにも渡って植えられた桜並木は、このところの雨ですっかり色褪せた葉桜になっている。それでも、春に桜の木を見ると心が踊る。新しい年度が始まり、あれをしよう、あそこに行こうか、それとも……などと、これから巡りくる四季折々の予定を思い浮かべる。大きな諍いのない国に生まれた、のんきな私。
“ロヒンギャ”という言葉を知ったのは、いつだったか? 知っただけで、それが何のことなのかを調べないまま昨日まで過ごしていた。“ロヒンギャ”とは、ミャンマー西部に何世紀もわたり暮らしてきたイスラム系の少数民族のこと。国連UNHCR協会の公式サイトを覗いてみると、「国籍も持てず、迫害に苦しみながら厳しい生活を強いられていた少数民族で、2017年8月、大規模な暴力行為により75万人以上が国境を越え、隣国バングラデシュに逃れた」とある。ミャンマーからもバングラデシュからも国民と認められていないのだという。バングラデシュの難民キャンプで暮らすロヒンギャは118万4800人以上(2026年3月現在)、2025年に危険な海を渡る旅を決行したロヒンギャは6501人……そんな記述を見ると胸が痛む。
そのように命がけの旅をするロヒンギャの9歳と5歳の姉弟が、映画『LOST LAND/ロストランド』の主人公である。まるでドキュメンタリーのようにリアルな映像にまたしても胸が痛む。幼い兄妹がバングラデシュから目的地のマレーシアまで、見知らぬ大人たちに混ざって海を渡り、森を駆け抜け、人買いの檻を潜り抜けて走る。子どもだから巧みな言葉で心の中を吐露することはできないが、その表情や背中で不安や恐怖、理不尽への戸惑いなどが汲みとれる。演技とは思えないほどのリアル感だ。映画を観た人の心に重い何かを手渡してくれる……そんな作品である。

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難民キャンプで暮らす5歳のシャフィと9歳の姉ソミーラ。二人は家族との再会を願い、叔母と共に遠く離れたマレーシアへ旅立つことに。パスポートを持てない彼らは密航業者に導かれるままに漁船へと乗せられる。自然の猛威や人身売買の危機に阻まれながらも、姉弟は過酷な道のりを必死に乗り越えていく。

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脚本・監督・編集:藤元明緒
出演:ムハマド・ショフィック・リア・フッディン、ソミーラ・リア・フッディン 他
2025年 / 日本=フランス=マレーシア=ドイツ / 99分 / 配給:キノフィルムズ
4月24日(金)全国ロードショー
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