今週は、普通の映画に飽き足らないあなたに贈る、シュールな作品をご紹介しましょう。ハンガリー映画界の鬼才パールフィ・ジョルジ監督の『雌鶏』は、本物のニワトリがニワトリを演じる、前代未聞のニワトリ物語です。でも、けっしてニワトリを擬人化した内容ではありません。ニワトリはニワトリのままで人間世界のあれこれを眺め、そして自分自身の宿命を悟っているかのように感じられます。ぜひご覧あれ。

©2025 Pallas Film-Twenty Twenty Vision-View Master Films-ZDF
シネマエッセイ
本日公開の映画『雌鶏』の公式サイトに、お笑い芸人ココリコ・田中直樹さんのコメントが掲載されている。コンビ名の“ココリコ”というのはフランス語で雄鶏の「コケコッコー」という意味だとおっしゃる。そうなんや~と嬉しくなった私。というのも、昔々の、そのまた昔、梅田の阪急三番街地下2階に「ココリコ」というお気に入りのカフェがあった。私と友人のかよちゃんは、梅田で遊んだ後にはよくその店でお茶をしたものだ。「ココリコ」の店頭ショーケースにはいろんな種類のケーキ(主にタルト)が並べられていた。店に入る前に「今日はどれにしようかな?」と眺めるものの、あまりスイーツが得意ではない私は、いつも「チェリータルト」になってしまうのだった。チェリーの爽やかな酸味とタルトの甘さがちょうど良いのだ。さらに、ドリンクにアイスティーをオーダーすると、とっておきのお楽しみがあった。氷入りのグラスを乗せたお盆を持つスタッフが、客の目の前でホットティー入りのポットを持つ右手を頭上高く掲げ、熱々の紅茶をグラスに勢いよく落としていくのだ! 何というパフォーマンス! 何ゆえ? と最初は訝しんだ私だが、奇をてらったパフォーマンスではなく、紅茶を冷ましながら注いでいるのだと後になって知った。私は、そんなふうにアイスティーを出してくれる店を他に知らない。「コケコッコー」という言葉からは程遠い雰囲気のカフェであるが、この「ココリコ」という言葉は、フランス人の誇りや希望の象徴としても使われるとか。なるほど……である。私のお気に入りのお店の一つだった「ココリコ」は、今はもうない。
その「ココリコ」をネットで検索すると、田中さんのコメントどおり雄鶏の「コケコッコー」という鳴き声のことだと出てくる。さらに芸人ココリコのコンビ名の由来に、あの三番街の「ココリコ」の存在が絡んでいるというエピソードも知ることができた。映画『雌鶏』の公式サイトから、記憶から消えかけていたお気に入りカフェへと繋がっていったことに、思いがけない喜びを感じる。ただし、映画の主人公は雄鶏(おんどり)ではなく雌鶏(めんどり)である。劇中、何といっても切ないのは、卵を産んでも産んでも人間に取り上げられるニワトリである。演じているのが本物のニワトリだから、表情からその気持ちを窺い知れるものではないが、こちらとしては申し訳ない気持ちでいっぱいになる。楽しいことも、切ないことも、滑稽なことも、また人間世界の重い現実も描かれているこの作品。観た人の感想がいつになく気になる。

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養鶏場で生まれ育った雌鶏が、出荷用トラックから脱走!人生初の自由を手に入れた彼女は、刺激と危険に満ちた世界を走り抜け、ワケあり一家が暮らす家へと辿り着く。その家のニワトリ小屋で新生活を送るなか、雌鶏は初恋を知り、初めて産んだ卵を温め育てようと決意する。ところが大切な卵は人間に回収されてしまう過酷な現実に直面。人生とは?生きるとは?我が子がヒヨコになる日を夢見て前に進もうとする彼女に、思いがけない運命が待ち受けていた──。

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監督:パールフィ・ジョルジ
出演:雌鶏(エスティ、サンディ、フェリ、エンチ、エティ、エニクー、ノーラ、アネット)
ヤニス・コキアスメノス マリア・ディアコパナジオティ アルギリス・パンタザラス
2025年/ギリシャ、ドイツ、ハンガリー/96分
配給:ハーク
9月25日(金)全国順次公開
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