金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、“人間って、いいな~”と感動する作品と、“人間とは、なんと恐ろしい”と身震いする作品、全く正反対の2作品をご紹介しました。
まずは、インド映画『エンドロールのつづき』。
物心ついて初めて観た映画に魅了され、自分も映画を作りたいと思い、のちに映画監督になった人物は多いですね。
この作品のパン・ナリン監督もその1人で、少年時代の映画にまつわる思い出がこの映画のベースになっています。
子どもの頃の夢を実現させた人は、それだけで「凄い」と思います。
しかも、その夢が映画監督という職業なら、幼い頃の思い出をこんな素晴らしい映像にして伝えられるのが羨ましいですね。
さぁ、映画がいかに人の心を魅了するか……劇場でたっぷり味わってみませんか。
【STORY】
9歳のサマイはインドの田舎町で、学校に通いながら父のチャイ店を手伝っている。
厳格な父は映画を低劣なものだと思っているが、ある日特別に家族で街に映画を観に行くことに。
人で溢れ返ったギャラクシー座で、席に着くと目に飛び込んだのは後方からスクリーンへと伸びる一筋の光…そこにはサマイが初めて見る世界が広がっていた。
映画にすっかり魅了されたサマイは、再びギャラクシー座に忍び込むが、チケット代が払えずにつまみ出されてしまう。
それを見た映写技師のファザルがある提案をする。
料理上手なサマイの母が作る弁当と引換えに、映写室から映画をみせてくれるというのだ。
サマイは映写窓から観る色とりどりの映画の数々に圧倒され、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱きはじめるが――。
【REVIEW】
主人公のサマイ、名前の由来を映写技師に聞かれ、「時間」という意味だと答える。
彼が生まれた時、両親には仕事もお金もなく、時間だけがあったから……だと。
元々、カーストの最上階級(バラモン)出身の父親は、親戚に騙され没落し、今は列車のホーム脇でチャイを売る店を細々とやっている。
店といっても屋台のようなつくりで、サマイは学校に行きながら店の手伝いもしている。
列車が到着すると、チャイの入ったやかんとグラスを持って乗客に売り歩くのだ。
貧しくとも真面目で厳格な父親は、サマイには将来のために学力をつけさせたいと思っている。
しかし、やんちゃなサマイは父親に叱られることばかりしでかし、お仕置きをされる毎日。
一方、無口で優しい母親は料理上手で、色々な野菜料理をお弁当にして持たせてくれる。
その映像がとても美しく、色鮮やかな料理が出来上がっていくシーンは、香りまで漂ってくるようで、まさに垂涎ものである。
サマイいわく、“世界一美味しいお母さんのお弁当”――それを映写技師への賄賂にして、彼はギャラクシー座の映写室に入れてもらう。
映写室の小さな窓から様々な映画を観ることになるサマイは、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱いていくのだ。
しかし、やがて映画もデジタル化され、映写機からスクリーンに映し出されていたセルロイドのフィルムが不要になる日がやってくる。
その不要になったフィルムが、どんなものに生まれ変わるのかを見逃さないでほしい。
それは、ラストに繋がる素晴らしい演出なのだ。
さらに、パン・ナリン監督が敬愛する多くの偉大な映画監督へのオマージュが、物語の所々に隠されているという。
それも見逃さないでほしいと言いたいところだが、気付ける人は相当な映画ファンと言えるだろう。
監督・脚本:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ
2021 年/インド・フランス/グジャラート語/112 分/スコープ/カラー/5.1ch/
英題:Last Film Show/日本語字幕:福永詩乃 G 応援:インド大使館 配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/endroll/
1月20日(金)~ 大阪ステーションシティシネマほか全国公開
関西では、大阪ステーションシティシネマ kino cinema 神戸国際など