金曜の夜９時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した映画は、伝説的ロングセラー漫画を超豪華キャストで完全映画化した『アンダーカレント』。
主演は真⽊よう⼦さん、監督は今泉⼒哉監督、そして音楽を手掛けたのはは細野晴⾂さんです。
Ⓒ豊田徹也／講談社 Ⓒ2023「アンダーカレント」製作委員会
タイトルの「アンダーカレント」とは、底流、下層流、(表面には現われない) 暗流という意味で、「⼼の奥底」のこと。原作は豊田哲也さんの漫画「アンダーカレント」で、2005 年に出版されてから18年以上の長きにわたって読み継がれている作品です。
今泉監督はこれまで、主に⻘春映画やラブストーリーを⼿掛けてきましたが、今回は観る者の⼼にじっくりと沁みわたるヒューマンドラマを完成させました。
Ⓒ豊田徹也／講談社 Ⓒ2023「アンダーカレント」製作委員会
【STORY】
夫の悟が突然失踪し、途⽅に暮れるかなえ。
⼀時休業していた家業の銭湯を再開すると、堀と名乗る⾒知らぬ男が「働きたい」とやって来る。
職も住居も転々としてきた堀は、⾃分のことは⼀切語らず、ただ黙々と仕事に打ち込む。
かなえは、友⼈から紹介された胡散臭い探偵・⼭崎と悟を探すことになるが、調査の過程でかなえの知らなかった悟の事実があらわになる。
傷ついたかなえは、物静かな堀との穏やかな時間に救いを⾒出していく。
だが、あることをきっかけに、知らず知らずのうちに⼼の底に沈めていた本⼼(アンダーカレント)が浮かび上がってくる……。
Ⓒ豊田徹也／講談社 Ⓒ2023「アンダーカレント」製作委員会
【REVIEW】
銭湯・月乃湯の女主人かなえ役の真木よう子が、少しふっくらとした外見になっていて、今までのイメージにはない親近感を持った。
かなえは父親亡き後、夫の悟と共同経営者となるが、悟がある日突然失踪してしまう。
そんなかなえの元に突然現れた堀は、自分のことはほとんど語らず、黙々と働き、静かに寄り添うように彼女を支える。
安易に、夫に失踪されたかなえの心の隙間を堀が埋め、恋愛に発展していくのかと思ったが、それ以上の哀しく優しい物語である。
ほとんど感情の起伏のなかった堀が、一度だけ感情を高ぶらせるシーンがある。
演じる井浦新の素晴らしい演技には、もうその時には彼の正体が観客にはわかっているからこその、胸に迫る感動があった。
そして、町の歴史の生き証人である煙草屋の店主を演じた、康すおんの存在もとても良かった。
井浦新が演じる堀の正体を見抜く役だが、悟りを開いたような優しい人柄を素敵に演じていた。
Ⓒ豊田徹也／講談社 Ⓒ2023「アンダーカレント」製作委員会
テーマとなっているのは「人を理解する」ということだ。
私たちは、周りの人のことをどれだけわかっているのだろう？ どれだけわかろうと努力しているのだろう？
他人を理解しようという気持ちより、自分を理解してほしいという気持ちの方が強いのではないか？
もっと言えば、そんな自分自身のこともよく理解できていないのではないか？
人間関係が希薄になった時代に生きる私たちに、そんなことを問いかけてくる物語だ。
監督：今泉力哉
原作：豊⽥徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーン KC」刊)
出演：真⽊よう⼦ 井浦新 江⼝のりこ 中村久美 康すおん 内⽥理央 永⼭瑛太 リリー・フランキー
2023年／143分／日本／配給：KADOKAWA
https://undercurrent-movie.com/
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