毎週金曜日、夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今日は2作品紹介しました。2作目はフランス映画『リトル・ガール』(ドキュメンタリー)でした。
【STORY】
フランス北部、エーヌ県に住む少女・サシャ。
出生時、彼女に割り当てられた性別は“男性”だったが、2歳を過ぎた頃から自分は女の子であると訴えてきた。
しかし、学校へスカートを穿いて通うことは認められず、バレエ教室では男の子の衣装を着せられる。
男子からは「女っぽい」と言われ、女子からは「男のくせに」と疎外され、社会はサシャを他の子どもと同じように扱わない……。
サシャの母親カリーヌは、自分たちを救ってくれる人を探し続けて疲弊していたが、ある小児精神科医と出会う。
それからのカリーヌはそれまでの不安や罪悪感から解放され、他の子どもと同様にサシャが幸せな子供時代を過ごせるよう、彼女の個性を受け入れさせるために学校や周囲へ働きかける。
まだ幼く自分の身を守る術を持たないサシャに対するカリーヌと家族の献身、言葉少なに訴えるサシャ本人の真っ直ぐな瞳と強い意志が観る者の心を震わせる。
(2018年2月から2019年1月まで間に撮影されたドキュメンタリー)
【REVIEW】
母親のカリーヌは「女の子を望んだのに男の子が生まれたのでがっかりした」と告白し、そう思ったことを激しく悔やんでいる。
それでもサシャの気持ちを理解して、彼女の「女の子の服を着て学校に行きたい」という希望を叶えるため辛抱強く学校と交渉していく。
「人と違う」ということは、本人だけではなくその周りにも様々な影響を与えるが、この作品はサシャの闘いだけではなく母親のカリーヌの闘いの記録でもある。
とても感動したのは、両親も3人の兄弟たちも、家族全員がサシャの味方だということだ。
サシャにかかりきりになるカリーヌは兄弟たちに申し訳ない気持ちを伝えるが、10歳の兄は「ちゃんとわかっているよ」と答える。
なんと心強い家族たち!
驚いたのは、フランスという国の学校でさえ「性別違和」を感じる子供に対して理解がない(というか理解しようとしない)ということ。
ジェンダーに関する様々な意識は、日本より先を行っているのがフランスだと思っていたのだが……。
小児精神科医とサシャのやり取りの中で、こらえきれず涙を流すサシャの表情に心が震える。
わずか7歳なのに、どれほどつらく悔しい思いを心に閉じ込めてきたのか。
人と違う一面を持った人を孤立させたり、攻撃したり、苦しませたり、悲しませたりする未成熟な社会はおかしい。
“自分が誰であるかは自分で決める”ということを、闘うサシャとその家族が伝えてくれるドキュメンタリーである。
監督:セバスチャン・リフシッツ
2020 年/カラー/フランス/フランス語/85 分/原題:Petite fille/英題:Little Girl/ 字幕翻訳:橋本裕充/字幕協力:東
京国際映画祭
配給・宣伝:サンリスフィルム
11月19日(金 )新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー
(関西では、シネ・リーブル梅田、シネリーブル神戸など)
https://senlisfilms.jp/littlegirl