今週2本目の映画は、第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『帰れない山』をご紹介しました。
原作はイタリアの作家パオロ・コニェッティの『帰れない山』で、世界 39 言語に翻訳され、イタリア、フランスなどで数々の文学賞に輝いた名著です。
瑞々しい自然描写と心理表現をそのまま映画化した、繊細でありながらダイナミックな物語です。
【STORY】
都会育ちの少年ピエトロは、両親と休暇を過ごした山麓の小さな村で、牛飼いの少年ブルーノに出会う。
一見対照的なふたりはすぐに親友同士となったが、やがて思春期のピエトロは父親に反抗し、家族や山からも距離を置いてしまった。
20 年後、結婚も就職もせず未来の見えない日々を送るピエトロは、父の訃報を受けて村に戻り、山での生活を続けていたブルーノと再会する。
そこでピエトロは、ブルーノが本物の親子さながらにピエトロの父親との時間を過ごしていたこと、山に家を建ててほしいと頼まれていたことを知る。
自分の知らない父の姿を聞かされたピエトロは、失われた時間を埋めるため、ブルーノとともに父の願いを叶えることを決意。
そして、自らの人生にも真摯に向き合いはじめるが……。
【REVIEW】
都会育ちの繊細なピエトロと、山育ちでワイルドなブルーノ……対照的な2人の少年が何故か気が合い、親友になっていく。
しかし、ピエトロの反抗期やブルーノの家庭の事情で一旦関係が途絶えた2人が再会するのは、ピエトロの父親が亡くなった後である。
自分の知らない父の姿を知ったピエトロは、失われた時間を取り戻すため、ブルーノと2人で父の願いだった「山の家」を建てる。
ピエトロの父の死をきっかけに、ふたりは広大な自然の中で友情を復活させていく。
「自分の天職は山の民だ」と、人生の目的をすでに見出していたブルーノ。
それに対し、ピエトロは物書きになりたいというぼんやりとしたものはあったが、いまだ未来が見えないまま。
ピエトロがブルーノに、古代インドの世界観《8つの山》について語るシーンが2人の人生を象徴しているようだ。
世界の中心にある最も高い山に登る者と、その周りにある8つの山すべてに登る者、どちらがより多くのことを学ぶのか?
簡単に答えは出ないが、まるでブルーノとピエトロの生き方そのもののようだ。
物語の舞台である北イタリアのモンテ・ローザ山麓の景色が、とにかく雄大でとてつもなく美しい。
長い歴史をたたえ、穏やかな時間が流れ、時には人々に試練を与える山で、彼らはそれぞれ自分の生き方を見つめ、居場所を見つけていく。
色々な顔を見せる山を背景に、2人の青年の生き方を自分の人生に重ねながら、ゆったりと観たい作品である。
そして、全編を通して流れる、スウェーデン生まれのシンガーソングライター・ダニエル・ノーグレンの歌声が心地良いのもお薦めの理由のひとつ。
第75回 カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞
原作:パオロ・コニェッティ『帰れない山』 関口英子翻訳(新潮クレスト・ブックス)
監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン シャルロッテ・ファンデルメールシュ
撮影:ルーベン・インペンス
出演:ルカ・マリネッリ アレッサンドロ・ボルギ フィリッポ・ティーミ エレナ・リエッティ
2022年/イタリア・ベルギー・フランス/147分/配給:セテラ・インターナショナル
https://www.cetera.co.jp/theeightmountains/
5/5(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
関西では、シネ・リーブル梅田 アップリンク京都 シネ・リーブル神戸など