金曜の夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。今週は、非常に重いテーマの日本映画『月』をご紹介しました。原作は、2016年に神奈川県相模原市で起きた「障害者施設やまゆり園殺傷事件」に着想を得て、2017年に発表された辺見庸の小説。やまゆり園の元職員だった事件当時26歳の男が、入所者19人を刺殺し、入所者と職員の26人に重軽傷を負わせた凄惨な大量殺人事件です。「生まれた意味」「生きる意味」「生きる価値とは?」……そんな人間の根源について真剣に考えさせてくれる作品です。
【STORY】
深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子は“書けなくなった”元・有名作家だ。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。勤め始めた施設では、作家を目指す陽子や絵の好きな青年さとくんという若い職員との出会いがあった。やがて、洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのが、職員のさとくんだった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく――。
物語は、重度障害者施設で洋子が目の当たりにする現実と、洋子と昌平夫婦の過去に何があったのかが描かれる。夫婦の慎ましい生き方やお互いを思いやる優しさ、やがて訪れる小さな希望に、観ている者は救われる気がする。この映画の製作にあたって、障害者施設の取材もしっかり行われたという。描かれた施設での出来事は全て事実だと監督は語っているが、ここ数年で施設の環境は目まぐるしく変化しているともいう。もちろん少しづつではあるが、良い方向に……。
凄惨な事件が起きないと変わらない、問題を隠蔽し蓋をする……そんなことが、この社会の至る所に潜んでいる。事実を知ったとしても何もできず立ち尽くすかもしれないが、せめて自分の「生まれた意味」や「生きる意味や価値」について考えてみたい。
監督・脚本:石井裕也
原作:辺見庸 『月』(角川文庫刊)
出演:宮沢りえ 磯村勇斗 二階堂ふみ オダギリジョー
2023年/日本/144分/配給:スターサンズ
https://www.tsuki-cinema.com/
10月13日(金)全国公開 関西では、Tジョイ京都 T・ジョイ梅田 kino cinéma神戸国際。シネ・ピピアは11月10日から。