今週は、9月5日から既に公開中の日本映画『ふつうの子ども』をご紹介しましょう。今を生きる子どものポジティブな人間ドラマ。ふつうの子どもたちの行動がどんどんエスカレートして、普通じゃないことになってしまう。観ている方もハラハラ、ドキドキ……その行き着く先には何が待っているのでしょうか。

©2025「ふつうの子ども」製作委員会
シネマエッセイ
私は、生まれてから小学5年生の夏までを、高知県の南西部に位置する小さな街で過ごした。4年生の秋、それまで住んでいた社宅から古い一軒家に引越すことになった。新たな住まいとなる家の裏は竹藪になっていて、広い前庭には桜やグミ、ビワの木などが植えられている。家庭菜園ができる程度の畑もあり、引っ越しのその日、畑の脇には真っ赤な彼岸花が揺れていたのを覚えている。家は古いが間口は広く、台所は土間、その横には風呂があり銭湯に行かなくてもよいのが嬉しかった。部屋は5つもあって、床の間付きの和室をぐるりと縁側が囲み、明るい陽ざしをたっぷりと受け入れている。ずっと暗い工場内の社宅で育った私と妹は、その明るさに心が躍った。ところが引っ越してすぐ、衝撃的な光景を目にすることになる。茶の間の北側にある引き戸を開けると、窓のない廊下の先に、当時はまだ水洗ではなく、いわゆる「ぽっとん式」のトイレがあった。そのトイレへと続く引き戸を、最初に開けたのが家族の誰だったのかは記憶にないが、悲鳴のような声に思わず全員が廊下を覗き込んだ。なんと、扉が開けっ放しになったトイレの便器の真ん中から大きな大きな一本の竹がにょっきり生え、茂った緑色の葉が何重にもとぐろを巻いてト
イレ全体を占領していたのである。葉先は廊下を伝ってこちら側に迫り、まるでジャングルに飲み込まれているようだった。その恐ろしい光景は、50年以上過ぎた今でも忘れられないほど強烈なものだ。もちろんそのままでは使えないので、両親が何とか使用に支障のない長さに切ってくれたが、想像力たくましい私は、トイレに行くたびに竹がヌーッと伸びてきそうで怖くてたまらず、そそくさと用を済ませていた。その後1年足らずで再び引越すことになって、恐ろしいトイレともお別れとなり、心底ホッとしたのを憶えている。ただ、私がいまだにどこのトイレであろうと、その扉を開けるときにほんの一瞬緊張するのは、あの日の後遺症に違いない。
私が“子ども”を卒業してから、気の遠くなるような歳月が過ぎた。子ども時代のほとんどのことを忘れてしまったが、4年生の時に目撃したあのトイレのジャングルのことは忘れることができない。映画『ふつうの子ども』の主人公・唯士たちも、4年生のあの夏の出来事をきっと生涯忘れることはないだろう。だって、あんな“おおごと”になるなんて……。

©2025「ふつうの子ども」製作委員会

©2025「ふつうの子ども」製作委員会
上田唯士、10才、小学4年生。両親と三人家族、おなかが空いたらごはんを食べる、いたってふつうの男の子。最近、同じクラスの三宅心愛が気になっている。環境問題に高い意識を持ち、大人にも臆せず声を挙げる彼女に近づこうと頑張るが、心愛はクラスの問題児、橋本陽斗に惹かれている様子。そんな三人が始めた“環境活動“は、思わぬ方向に転がり出して――。

©2025「ふつうの子ども」製作委員会

©2025「ふつうの子ども」製作委員会

©2025「ふつうの子ども」製作委員会
監督:呉美保
出演:嶋田鉄太 瑠璃 味元耀大 瀧内公美 少路勇介 大熊大貴 長峰くみ 林田茶愛美 風間俊介 蒼井優
2025年/日本/96分/配給:mur mur
https://kodomo-film.com/
9月5日(金)から全国公開中
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