金曜夜9時からの最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
花粉症の季節がやってきましたが、皆さん大丈夫ですか?
私は3月に入った途端に、今シーズンの花粉症がスタートしました……ハクション!
今年は飛散量が非常に多いとは聞いていましたが、マスクをしているからと油断していました。
さて、今週は2つの作品をご紹介しました。
まずは、イタリア映画『丘の上の本屋さん』で、製作にはユニセフ・イタリアが共同製作として参加しています。
【STORY】
古書店の店主リベロは、常連客たちに損得を超えた対応をし、街のちょっとしたオアシス的な存在でもある。
そんな彼が店先で、買えないまま本を眺めていた移民の少年エシエンに声を掛ける。
好奇心旺盛で利発な彼を気に入ったリベロは、コミックから児童文学、中編小説、長編大作、さらに専門書まで次々と店の本を貸し与えていく。
エシエンから感想や意見を聞きながら、様々な知識やものの見方や考え方など、リベロはジャンルを超えて叡智を授ける。
そしてイタリア語で「自由(Libero)」を意味する自身の名のとおり、エシエンに自由であること、誰もが幸せになる権利を持つことを伝えようとする……。
【REVIEW】
物語の舞台となるのは“イタリアの最も美しい村”のひとつ、チヴィテッラ・デル・トロント。
石造りの歴史ある街並みが味わい深く、また、丘の上からの景色が素晴らしい。
冒頭、主人公のリベロが歩く後姿越しに、丘から見晴らす集落と山々が映し出されるが、少し色づいた木々が美しい。
特に何か事件が起こるわけではなく、店を訪れる人々とリベロとの会話だけで物語は進んでいく。
隣のカフェで働く青年、ゴミ箱から拾った本を売りに来る労働者、初版本を探す収集家、発禁本目当ての神父、辞書を売りにくる大学教授など。
移民の少年エシエンとのエピソードもその中のひとつで、特別に彼との関係だけにフォーカスされた物語ではない。
そんな中、リベロは持ち込まれた本の中に紛れ込んでいた日記帳を発見し、そっと開いて読み始める。
どうやら若い女性が書いたものらしく、リベロはオルゴールをBGMに、その日記を読むことを日課にする。
このシーンが、ブレイクタイムのようにちょっとしたアクセントになっていて面白い。
リベロは、本の買えない移民のエシエンに「読み終わったら返しにおいで」と「ミッキーマウス」のコミックを貸す。
エシエンが本を返しに来るたびに感想を聞き、そして次の本を貸し与える。
「本は2度読め。1度目は理解するために、2度目は考えるために」というリベロの言葉を胸に刻みたい。
エシエンに貸し与える本はコミックからピノキオ、イソップ寓話、星の王子様、白鯨……と、どんどん深い内容のものになっていく。
そして、最後にリベロから手渡される本は意外なものだが、エシエンはそこに書かれた言葉にとても勇気づけられたのではないだろうか……。
本がなくても生きていけるが、本があれば人生はより豊かになり、そして自分の進むべき道も見えてくる気がする。
監督:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ ディディ―・ローレンツ・チュンブ コッラード・フォルトゥーナ モーニ・オヴァディア
2021年/イタリア/84分/配給:ミモザフィルムズ
http://mimosafilms.com/honya/
2023年3月3日(金)から 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
関西では、大阪ステーションシティシネマ kino cinéma神戸国際 などで上映