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【水谷幸志のジャズの肖像画よもやま話】7月4日(木)リー・モーガン

毎月第1木曜日は「水谷幸志のジャズの肖像画よもやま話」を配信しています。
ハニーFMのフリーペーパー「HONEY」vol.12〜32に掲載されていた水谷さんのコラム「水谷幸志のジャズの肖像画」では書ききれなかったエピソードや時代背景などをゆったりと振り返りながらお送りします。
当時のコラムと合わせてお楽しみください。

「HONEY」vol.15


ジャズの世界で花形楽器と言えばトランペット!誰も異存はないだろう。刺激的な真鍮の響きに、艶やかなフレージング。スカーン!!!と脳天を突き抜けるような快感、ジャズの美味しい処を総て備えているお洒落な楽器だ。でもトランペッターは不良の系譜。しかもラッパ吹きは、「破滅へと突っ走る」おまけに「夭折」といった厄介な荷を背負う。その呪縛に嵌ったのがリー・モーガンだ。18歳で衝撃的なデビューを果たし、早熟な天才トランペッターと称された男。どこか憎めなく、人間臭いモーガン。かっこよく、不良で、とっぽい、と幾つもの顔を持つモーガンといえども、「トランペッター伝説」の呪縛から逃れる事はできなかった。70年代に入り、さらなる飛躍への助走を始めた33歳のモーガンに「呪われたエンディング」が用意されていた…
モーガンの数多い作品の中で、幾度も針を落としたのはブルー・ノート1500番台。私が21、2歳の暑い夏の日、ミナミ界隈のジャズ喫茶でよく流れていたのが“ウィスパー・ノット”。「リー・モーガンVol.2 1541」の冒頭を飾る哀愁のバラードだ。他に心に残るのは「ザ・クッカー 1578」。デビュー1年目の作品、冒頭の“チュニジアの夜”は、キュルキュルとグリス・アップで小節を効かしたハイ・ノートに、アダムス(bs)の重低音が重なる迫力満点のサウンドだ。そしてあと一枚が、貴重なワン・ホーン作 「キャンディ 1590」。ここでは、怖いもの知らずの自由奔放なアドリブや、人を食ったようなソロなど、やんちゃで、大胆なモーガンの素顔が鮮やかに表れる。
72年2月19日、なんの前触れもなく「呪われたエンディング」が始まる。その舞台は、雪が降り、道路も凍る夜のニューヨーク。ジャズ・クラブ『スラッグス』に出演中のモーガンに突然悲劇が襲う。長いドラッグ中毒からの復帰を支えたのは年上の愛人だったが、その愛人が放った氷のように冷たい銃弾を胸に受け、呆気なく伝説の幕を降ろしたのだった。…つい最近、私はかび臭く、懐かしい匂いのするお皿に針を落とした。(古い話だが61年1月、ジャズ・メッセンジャーズが大阪にやってきた時、私は心斎橋通りで偶然彼らと遭遇する。心ブラを楽しんでいたジャズメン達が老舗の履物店『心斎橋てんぐ』の前で足を止めていた。千載一遇の出会い!多くの取り巻きの僅かな隙間から、モーガンの姿を拝む事ができた!)針が溝をこする音と共に、ほん間近で見た、粋で、お洒落、不良っぽいモーガンの姿が鮮やかに蘇ってきた。一枚の擦りきれたお皿の中にも、「トランペッター伝説」のリー・モーガンは確かに息づいている。間違いなく…


ハニーFMポッドキャストで配信放送しています。(再生ボタン▶を押すと番組が始まります)

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